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 こうして合法的にサボタージュを認められたはいいが……さて、どこを探そうか。  携帯を取り出し、紘野の番号にかけてみる。『おかけになった電話番号は───』、オーケーわかった。  メールしたところであのメール無精が確認してくれるはずもない。一応バッグはまだ教室にあったから、寮に帰ってはいないと思う。  となると、屋上かな。天気いいし。  屋上は屋上でも、ここ本館じゃなく、もっと静かな、北棟あたりの。  学園の敷地もさることながら、ここの校舎は俺が今まで生きてきた中で見た建物の中でもダントツに広い。  校舎は大きく分けて本館と分館がある。  ほかにも体育館や講堂・食堂・温室・部活棟さまざま、本っっ当ーーにさまざまな建物があるけれど、"校舎"といえばこのどちらかが当てはまる。  分館も分館で中央棟と東・西・南・北にわかれ、しかもだいぶ入り組んだ構造。  ちなみに2年Sクラスがあるのは本館。  北棟はちょっとばかり離れているが、ルートさえ知っていればさほど苦でもない。  近道抜け道、複雑な分岐路。電子生徒手帳にナビが搭載されているくらいには、わりと本気で迷路なのだ、この学園は。  そして近道ルート通りに進むには、一度階下に降りて一年の……Sクラス付近を歩く必要があるのだけれど。   なんつーか…………嫌な予感がする。  そしてこういうときの勘は何故か外れないのだ。この漠然とした不安は、恐らく。  遭遇フラグ的な。 「--おいっカズマ! 何でオレから逃げんだよっ!」  やせい の 王道 が あらわれた!  広々とした廊下に響くご近所迷惑な大声を聞いた瞬間、俺の本能が真っ先に逃走を告げた。  びたんっと物陰に隠れ、あえなく背中を壁に強打。いてえのなんの。周りにいたほとんどが王道に注目してたから、副会長あるまじき奇行を目撃した生徒は幸いゼロ。 さすが俺の反射神経。有り難くも何ともねーよクソいてえ壁死ね。 「はぁっ、はっ、なんっっで追いかけてくるのさ! あのまま大人しく双子補佐たんとチャラ男会計様と食堂ランチタイムでトキメモしてろよ!!」 「なんでって、カズマがコソコソ物陰からオレたちを見てたからだろ! 仲間に入りたいんだろ!? 入れよ!!」 「お前にッ! 名前呼びをッ! 許したッ! 覚えはッ! ないッッ!!」 「つれねーこと言うなってば、友達相手に!」 「で、でた~~~~~全人類皆お友達思考! 伝家の宝刀(♂)! 草不可避!」 「く、くさふかひ……??? なんのことだよ????」  うっっっわーーー……。あれは。  いつもはアンチ王道路線の俺だが、あれはどっちも擁護できねえわ。  だって王道と今バトってるあのコ、絶対腐男子だろ???(全腐男子全員敵思考)  よくわからないけど、あのカズマくんと呼ばれた男の子は王道とがっつり面識があるようだから、王道のクラスメートか何の可能性が高い。  そして言動的にも腐臭が隠せていないので、「物陰からコソコソ」とはつまり、そういうことなんだろう。  そこで不審に思うでもなく「仲間に入りたいんだろ?」という解釈に着地する王道も大概おかしいが、腐男子の行動がだいぶアレなのでフォローのしようがない。  だが、王道を目の前にして面と向かって拒絶を示せる彼の度胸というか、正直さは素直に買いたい。  何せ同じ腐男子でも某幼なじみなんかは王道との関係に対して「利用価値」とか言いはじめるくらいの悪辣ぶりなのだ。  謎の腐男子くんと王道の掛け合い、果たしてどちらに軍配があがることだろう。    

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