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   好奇心は猫をも殺す。  そんな諺は頭から綺麗にデリートされていたもので。その場に身を潜めながら、騒音ズの言い争いへと耳を傾ける。 「頼むから僕に構わないでよ、僕は分相応に、遠くから生徒会の皆様を観察、違う、見守るだけで満足なんだからっ!」 「そうやってあいつらを遠巻きに見るの、良くないぞ! そうやって皆が特別扱いするから、余計にあいつらは孤独になるんだ!」 「だからって君が絡んだところでこちとら全ッ然萌えないんだよ! 俺様会長×腹黒副会長の顔面国宝ハッピーセット最推しの民からすればそこに添えられた繁殖マリモの異物感この上ない!! やはり至高は美形×美形……!!」 「燃え……? ハッピ……えっはっ、?」 「僕が長年履修したチャラ男受けも双子リバも君のせいで台無しだ! 妄想の余地がない王道学園ほど居心地悪いものはない!!」 「ちょっと落ち着けって……さっきからなんなんだよ!?」 「まず根本的に、わんこに嫌われた時点で君は王道失格なんだよぉっ!」 「さ、さっきから意味分かんねえことばっか大声で、恥ずかしくないのか!?」  確かに普通なら恥ずかしい。こればかりはお前は間違ってねえよ王道。  腐知識の詰め込まれた腐男子生徒の願望まみれなセリフに常人がついてけるわけねえよな。ついでに言うとお前もその子もはちゃめちゃに大声だけどな。  気づけば付近の一年生たちが彼らを囲うように続々と集まってきている。ちょうど五限目が終わって、休憩時間に入ったのだ。おかげで俺もここから動けなくなってしまった。  なかなかに爆弾発言満載の早口マシンガントークを理解できた人間はこの場にどれほどいたことだろう。  生徒の中には敬虔な生徒会ファンもいるにはいるので、マツリをチャラ男会計とか、タツキをわんことか、本当はあんまり大声で言わない方がいいんだけどな。  特に会長、俺、会計の役職名や名前を一般生徒が呼ぶことは、本来この学園ではあまり推奨されてなかったりする。  ランキングで決まった呼び名を使うのが、生徒間の暗黙のルールらしいので。  《紫星華月(しせいかげつ)》とは、『別名持ち』の対象者を指す言葉。  まあ、厳密には校則ではないので、仲間内では自由に呼んでいるだろうが。  それは置いといて。  俺はここからどうやって抜け出そうか。築き上げた人物像的にも、盗み聞きってキャラじゃないし。かといってのこのこ出ていけば王道に絡まれそう。いや、例え言い争っていたのが王道じゃなくたって、こんな注目下で仲介なんてしたくない。目立ちたくない。 「とにかく僕は、王道のことが嫌いなんだ。でもちゃんと自重ができる傍観者だから、君は僕に近づかないでね」 「は? えっと、要するにお前はオウドウってヤツが嫌いなんだろ? 何でそれをオレに」 「「ルイ見っけー!」」 「! ……ちょちょちょ巻き込まれフラグとか所望してないから!」  おっと。ここで乱入者か。  綺麗な二重奏を奏でるハイトーンボイスが近づいてくる。色めきたつギャラリーが邪魔でここからは見えないが、声からして双子だろう。  腐男子くん曰く、さっきまで王道と食堂ランチタイムを過ごしていた双子。仕事どころか、授業までサボって。 「もー、急に走り出すんだからー」 「どこに行ったかとおもったよー」 「ごめんって、それよりも紹介したいヤツが………あれ? カズマどこ行った?」  巻き込まれフラグを無事回避したらしい腐男子くん。俺も早く後を追いたいところだ。  だが、無邪気に王道に絡む双子の、疲労も屈託もまるでない笑い声をきいていると……そろそろ、灸を据えてもいいのでは、という思いがふつふつと。  

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