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「……なーんで、よりにもよって委員長が来るかなあ……」
ぼやくように不満を口にしたのは、意外にもマツリだった。
それを一瞥した志紀本先輩はどこか含みを持った顔で、口の端を上げて応じる。悪いカオ。ちなみに周囲の一年生たちは先輩が登場したあたりから一向に息をしていない。吸って。頼むから。
「俺が来たら何か、不都合でも?」
「不都合、ねえ? 風紀のトップが偶然ここを通ったら偶然騒ぎが起きてました、なんて、そっちに都合が良すぎるハナシだと思わない?」
「そうは言っても、本当に偶然なんでな。
……───粗捜しをされていると勘繰るくらいなら、綻びくらい綺麗に取り繕ってみせろ。生徒会」
珍しいことに、いつも飄々としたマツリがあからさまに顔をしかめさせた。ついつい、マツリの昏い表情をじっと見つめる。
そのあいだにも隣の志紀本先輩は周りの生徒を促し、教室へと帰らせていた。すべてにおいて学園最高クラスを誇る風紀委員長に直接お声掛けをいただき、一年生たちは夢見心地のままふらふらとした足取りで先輩の指示に従う。
「嫌味っぽいなあー」
「委員長には関係ないじゃん」
「「りっちゃん、こっち来て!」」
それぞれの手を双子に引かれ、先輩の傍から引き離される。「「りっちゃんが嫌がってるでしょー!」」と小型犬のようにきゃんきゃん双子に吠えられてもどこ吹く風、志紀本先輩は痛くも痒くもなさそうだ。
見てわかるとおり、この学園の生徒会組織と風紀委員会は折り合いが悪い。
特に洒落にならないのが、会長と志紀本先輩。
続いて愉快犯な双子や日頃の素行で注意を受けやすいマツリのことを風紀は嫌っており、逆に双子たちも問題が起きてない段階ですら言いがかりつけてくる風紀に悪感情を持っている。
両者歩み寄りの姿勢が皆無なだけに、双方の溝は増すばかり。
「まるで幼子の嫉妬だな。ところで何故、お前等が嫌がっていると断言出来る? なあ支倉。俺に構われるのはそんなにイヤか?」
「ぃ……、私以外の人間を構えばいいことでしょう?」
「それは俺が決めることだ」
嫌だよ。イヤに決まってんだろ。からかわれるのは苦手なんだよ。あんた、そんなことは百も承知だろ。
俺の腕をそれぞれ 絡めとる双子の腕が、ぎゅう、と強くなる。俺の返事が曖昧だったからだろう。
だが勘違いはしてくれるな、先ほどから意味深な言動をとるこの人は、ただ俺が内心焦ってることに気付いた上でさらに状況を掻き回したい鬼畜な性格ってだけだ。つまりは、とんでもないドエス。
まあこうは言っても、別に俺自身はそんなに険悪というわけでもない。必然的に風紀とも。この先輩と現風紀副委員長の二人には、去年本当によく世話になった。
まあだからこそ、逆らえないのだけれど。
「……と、まだいたのか。そこの一年。お前もだ。お前も教室に戻れ」
「「「「え…………あ」」」」
ここですっかり忘れていたのが、さっきから静かな王道の存在。
いや、俺はまだしも、マツリたちまで王道の存在放置ってどういうこと。
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