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かくいう王道はというと、志紀本先輩を見上げてふるふると体を震わせている。
この色気だだ漏れの男にあてられてしまったか、とひとりで勝手に納得していたところ、不躾にも王道の人差し指が志紀本先輩に向けられた。
「……おっ前……っ、この前オレから逃げたやつだな!?」
『逃げた』??
いやあの、『無視した』の間違いじゃなくて?????
現場を直接見てなくとも何となくオチが読めてしまって、どうリアクションすればいいのかいまいちわからない。
二人の様子を交互に観察する。
沈黙は長くは続かなかった。志紀本先輩が呆れたように視線を外す。
「同じ人間に二度も同じことを言うのは主義じゃない」
「、な……っ」
「支倉。お前には訊いておきたいことがある。さして時間は取らないが、これから暇はあるか」
「え、あっ、はい……!」
スパッと一刀両断し、王道が二の句も出ないうちに先輩が何食わぬ顔で俺に水を向ける。
逆にこっちが戸惑うのだが。
え、いいの? 王道このまま放置?
いやまあ俺としても好都合だが、王道を気に入ったふりをしている者としては、このままあっさり置いていってもいいものか……。
双子が寂しそうなマンチカンみたいなくるりとしたつぶらな瞳で俺を両サイドから見上げる。ウッッ罪悪感……。
しかし先輩が手招きするので逆らうわけにもいかない。俺を控えめに引き留めようとする双子の小さな手をやんわり振りほどき、先輩のもとへ。
「……まっ、待てよ! 返事くらいっ、」
「一向に話が通じないようだなお前は。これがあの理事の血縁者か」
「! 叔、父さんは関係な」
「三度 は言わない。教室に帰れ。───俺に手間を取らせるな」
「……~っ、」
うわ、すっげぇ……。
とりつくしまもないというか、なんつーか。
感情の機微が微塵も読めない冷然とした声が、言葉の鋭さや冷たさに拍車をかける。王道も、ここまで簡単に黙るとは予想外だった。
ここで終わるかと思いきや、今度は志紀本先輩がマツリを見て意味ありげに口角を上げた。マツリの表情は未だ冷めきったまま。
「……何か言いたげだな、綾瀬?」
「いーや? 委員長のまわりにいるひとたちって、委員長に逆らえなくてカワイソーだなって、思っただけ」
ま……まずい、この流れ、完全に胃薬案件だ……。
さっきからマツリが志紀本先輩に対してやけに好戦的過ぎる。こっちは極力穏便に済ませたいのになんなんだよ一体。とりあえず芋けんぴでも食って落ち着けよ頼むから。
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