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 恐らくさっきみたいに先輩が王道をスルーして立ち去ったところを、あいつが勝手に逃げたと勘違いしただけ、というオチが見えてはいるが。  気になるのは、先輩が王道をどのように認識したか、だ。まあこの態度からして、王道信者にならなかったことは明らかだけれど。 「気になるか?」 「気にな……ります。あなたが相手だと、何かあったらルイが可哀想でしょう?」 「生徒会副会長ともあろう人間が、随分と必死だな」  危ねえ、王道を気に入ってる設定、忘れるとこだった。条件反射の反抗心で「気にならない」っつってたらそこを突っつかれてたかも。ここは庇うのが正解。  というかすべてにおいて完璧な先輩が相手では、被害者が王道だとしても同情を禁じ得ない。  ここで先輩を牽制して、風紀委員長×王道フラグを確実にへし折っておくのも悪くないかも。万が一、億が一、会長だけではなくこの人まで王道信者に加わろうものなら、まず間違いなく学園の秩序が崩壊する。 「ルイを邪険に扱うつもりなら近付かないで下さい。これ以上彼に関わろうとするのなら、あなたが相手だろうとこちらも容赦はしません」  うわあ、俺すっげ性格悪そう。あ、今更だったわ。  リウに読まされた小説にあった腹黒副会長の台詞をそのまま引用した結果がこれである。あの頃はまさか自分が言う立場になるとは思いもしなかった。  そしてこの先輩をガチ睨みしたのも久々だ。本音言うと胸中でビクビクしている。 「俺相手に脅しとは。偉くなったな、支倉。そんなにあれが心配か?」 「当たり前です。………何が、可笑しいんですか」  人がありったけの勇気を振り絞って言いきった言葉を聞き何故か笑い出す先輩の反応に、思わず眉が寄る。その姿もまったく不気味には見えず、逆に口許に手を添えて笑う様が美形過ぎて悔しい。  ちくしょう、何だよ。言ってて恥ずかしくないのか? とか言われたらさすがに傷付くぞ。 「いや、気にするな。それより、先ほどお前に訊いておきたいことがあると言ったな」 「ぅ、はい」 「ふ、そう警戒するな。俺の質問に素直に答えられたなら……先日アレと会ったときの詳細を、教えてやらないこともない」  この人のことだからもっとキッツい条件付きかと思ったけど……それだけでいいの?  肩透かしを食らった感覚のまま軽い気持ちで頷いた俺は、次の言葉で先輩が笑みを深めた意味を知るはめとなる。  それは例えるなら、罠に引っ掛かった獲物を見て舌舐めずりするような、狩人の微笑。 「お前があんな下等生物ごときに想いを寄せていると嘘を吐く理由を、言え」  

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