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 タイム。  ちょっ、ちょっとあの、タイムをお願いします。  え、待って。たった一週間でバレた? 一体何があった? 俺この一週間で先輩と会話どころか姿をお見かけしたことすらなかったんですけど??!  お、おち、落ち着け。深呼吸深呼吸。  理由を明かしたところでメリットが思い浮かばない。選択肢はひとつ、とにかく誤魔化す。そう容易く手札を晒してたまるか。 「何を根拠にそう仰るのです?」 「お前のように打算的で無駄に知恵が回る人間が、あのような非常識な珍獣に純粋な好意を向けているとは信じがたい。何か企んでいると考えるのが道理」  騙されてはいけない。これは単なるこじつけだ。詭弁だ。  それは重々承知しているけれど。 「それからもうひとつ」  コトン、と先輩が自らのマグカップをテーブルに置く音一つ。探るような眼差しとかち合う。  ダメだ。無理な気がする。  悪あがきはやめてさっさと吐け、的なプレッシャーをひしひし感じた。何せ最初に理由を問う時点で、この人はもうすでに確信を持っている。俺の好意の虚偽をとっくに見極めている。その上でこうして俺との問答に付き合っているのだからどう足掻いても無理ゲー過ぎる。 「先ほどから俺があの一年をどれだけ侮辱しようと、お前……怒らないんだな?」 「………、」  思わず呆けた声が出そうになって、慌てて口を結んだ。それが間違った行動だと気付いたときにはすでに遅い。俺の表情の変化までしっかり見ていた先輩は勝ち誇ったような顔になり、緩慢な動作でソファへと背中を預ける。  "下等生物"、"非常識な珍獣"。冷静に思い返してはじめて気づく、この先輩にしてはだいぶ珍しく、強い言葉を用いたディス。俺がどんな態度を取るのか、試していたらしい。  つーか言い過ぎ。  天下の風紀委員長サマにこれだけ言われるって、王道お前どんだけ煙たがられてんの? 「……それが何か?」  思った以上に投げやりな声が出た。  潔く認めよう。何枚も何枚も上手なこのひとが相手では、逆立ちしたって敵わない。 「開き直るか」 「ああいうタイプは恋愛対象外なので。生徒会4人を含めた信者達は別でしょうけど」  そもそも、俺が同性愛者ではないことをこの人は知っているし、端っから誤魔化しなんぞ通用しない相手だったのかもしれない。  下手に誤魔化すより、素直に認めて内密にしてもらえるよう願った方がまだ得策だ。  

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