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応接室に残った静寂。
少々イジメ過ぎたか、と自覚していながらも特に反省も後悔もしていない風紀委員長は、長い指でカップの縁をなぞり、限られた暇をもて余していた。
ふと目に止めたのは先ほどまでここにいた副会長のマグカップ。
わかりやすく賛辞するわけではないが、ちゃっかり飲み干しているあたりがあの後輩らしいと思う。
どんなに地位を得、人望を集めるようになっても、中身は未だ一般的な感性を持つ後輩。そして、彼に対して非常に反抗的。そこが、彼があの後輩を気に入るポイントでもあり、加虐心が芽生える理由。後輩イジメの原因だった。
そこで興味が失せたのか一息つき、彼は自分の台詞を反芻する。
『周りを見ろ』。
そう忠告したのは、気まぐれ。
別に従おうと従うまいと彼にとっては関係のないことであり、あの生意気な副会長が、同性愛に無意識に拒否反応を示す後輩が、どう行動しようが口出しはしないつもりだった。
ただ、恋愛感情はないにしても…………気が向いたら食ってもいいくらいには気に入っている後輩だから故に、忠告。
(───もっと、周りを見ろ。)
あの後輩を本気で狙う人間は、少なくない。確かにあの後輩は容易く他人に懐くほど素直な性格ではないけれど、何でもそつなくこなせるほど、万能でもない。
故に、忠告。
あの一年生に関することに限り、ある程度のフォローはしてやると彼は提案した。
しかし、それ以外のことで手を貸す予定はない。後輩自ら、こちらに救いを求めて頼ろうとしない限りは。
(それがお前の選んだ道で、お前自身の自業自得。)
(去年の暮れ、生徒会役員に就いたあの日、気に食わない笑い方をこの俺に向けたお前が悪い。)
第三者の登場により、その思考はふつりと途切れる。
「お話は終わりましたか?」
「千歳 か。いたなら顔を出せば良かっただろう。支倉 も喜んだだろうに」
「いいえ、お邪魔するのも悪いかと思いまして。………ふふ、素直にご心配だとお伝えなされば宜しいですのに」
「……心配? 支倉を?」
らしくない響きだと思った。彼は自問する。
心配?
そして自答する。それは有り得ない、と。
ただ、挑発すれば睨み返してくる姿勢は出会った頃から変わらない。それに安心感を持っている自分自身に気付かないほど、麻痺してもいない。
『一応、感謝はしてますよ。あんたは俺の、恩人ですし……多分』
記憶の想起も、らしくない。
"支倉は、あの男の大事な存在"。
目を配ってしまう理由を探し、彼は自然な理屈で自分自身を納得させた。
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