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平気なのに。 1
風紀委員室から飛び出した後、よろよろとした足取りで到着したのは北棟の屋上。6限目の真っ最中とあって、やはりその場所は閑散としている。
ウッドデッキの屋上はドーム状の大きな屋根やベンチもあり、十分な広さを有する。
校舎の屋上は問題発生率の高さから常時扉をロックされていることが大半なのだが、一部しか知らない抜け道がある。災害避難経路だ。
そこを利用した不良たちが溜まり場として使用することがままあるスポットなのだが、不良にさえ恐れられているコイツ がここにいる限りは誰も寄り付こうとしない。
つまり。コイツを恐れない俺にとっても、格好の穴場なのだ。
「ひーろの。やっぱここに居た」
「仮にも副会長が授業サボってもいいのかよ」
「別にいんじゃね??」
「即答すんな」
予想通り、日差しが嫌いなこの男が寮以外で涼むとなれば北棟のこの屋上だろうというアタリは的中していた。
ちなみに『役職持ち』の俺は電子生徒手帳ひとつあれば校舎内の7割くらいの部屋を突破できるので、屋上には堂々と扉から入ってきた。まあ、履歴が残るのが難点だが。
ああ疲れた。ここに辿り着くまでの道程に一体どれだけの障害があったことか。
王道と謎の腐男子くんのバトルを物陰で見学し、双子とマツリがそこのパーティーに加わったかと思えば謎の腐男子くんログアウト&俺がログイン、極めつけに志紀本先輩に絡まれ風紀委員室に連行、掌上で転がされるだけ転がされた末に逃げ出し、ようやくここへ。
思い出すだけでも疲れた。息抜きどころか、確実に疲労が嵩んだ気がする。
「お前こそそのサボり癖どうにかしろよ。ダブっても知らねえぞ」
「視線がいちいち鬱陶しいんだよ」
「それがチワワの特徴だろ、《蒼薇 》サマ。俺よりお前の方が学園に長くいるんだから慣れてるでしょーに」
別名・《蒼薇の君》と呼ばれる紘野さんの親衛隊は本人が煩わしいのを嫌うのでだいぶ訓練済みだと思うのだが、まさか視線が鬱陶しいときたか。見るなってか。カワイソーに。
雑談を交わしながら、壁に寄りかかって座る紘野の横に腰を下ろす。
背中を壁に完全にくっつけると、何だか脱力感に襲われた。体内に滞留するモノを吐き出すかのように、大きな溜め息が漏れた。
「それで、ここに来た理由は」
「半分は、藤戸氏からお前への言伝。ちゃんと授業に出ろってさー」
「もう半分は」
「俺だってサボりたいお年頃なんだよ」
「自棄にでもなったか」
「……別にそこまで追い詰められちゃいねえよ」
元々の猫かぶりに加え、王道を想う演技と、補いきれない仕事量の負担。自分で蒔いた種もあるとはいえ、確かにこれらの負荷から解放されたいという気持ちはある。
とはいえ、自棄になるほど弱っちゃいない。
「ただ……ちょっと疲れただけ」
だから一休みしたかったってのがひとつと……リウ以外で俺の本性を唯一知るこいつの隣なら、肩の力が抜けるのではと思ったのが、口には出さないもうひとつの理由。
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