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 頑張ってくれた分タツキには存分に休んでほしいし、ほかのメンツにも通常業務をさっさと片付けてほしいので、新歓は極力俺一人で準備を進めるのが望ましい。  不安はあるけれども。  何せ生徒会一年目、単独での企画運営とかはじめてだし。  志紀本先輩も俺が不安になるのを見越して、ああいう提案をしてくれたんだろう、けれど……。 「……なあ、俺って嘘下手??」 「は?」 「それがさあ、志紀本先輩……あー、風紀委員長にバレてたんだよ、俺の『王道お気に入り設定』が演技だったって」 「……」 「でも先輩とはここ一週間顔すら合わせてねえのにな。やっぱあの人が鋭すぎるんだよなあ……」  その上、からかわれたし。  手助けすると言ってくれたこと自体は有難いことに変わりはないんだけどな。  だからこそ、純粋に悔しいというか。  俺の演技も隠した不安も、いろいろ読まれた上でフォローするとまで確約を得て、格と度量の違いを見せつけられた気分だ。もう何度となく積み上げられてきた「敵わない」を、また今日も更新してしまった。  ただの取るにたらない俺個人のプライドなんぞ、自分の中でさっさと処理するべき感情だとわかってはいるんだけども。 「……経験則」 「うん?」 「表面上のお前しか知らない人間が相手なら、簡単に騙される」 「うぅん……」 「お前の外面しか見ていないその他大勢ほど甘くはないってことだろ。そのセンパイとやらは」  甘くはない、か。  俺がやっていることは言うなれば、自分自身を偽って全校生徒を騙すこと。虚実。嘘。  人間誰もが人生でウソのひとつやふたつ吐くだろうし、生きやすい環境を作る処世術として本心とは別の態度を取ることもままあるとは思う。  けれどそれは、必ずしも肯定される行為じゃない。  嘘は嘘。吐かなくてもいいなら本来吐かないに越したことはない、不要なもの。  自分の安寧のために誰かを騙している、その認識は、もっと確固として持っておくべきだ。甘く見積もっていたらどこかで落とし穴にハマる。先輩のように、嘘に気づいていても何も咎めない人間ばかりではないのだから。 「……そう考えると、志紀本先輩に早々にバレたの、かえってよかったのかもな」 「……」  まあ、あの人には隠し通す方が難しい気もするけれど。俺のメンタル的にも。  一人納得しつつ、気持ちを改める。  俺の両目を覆うてのひらの向こう側で---紘野の双眸が冷た過ぎる黒へ、すっと冷めていくのも気付かずに。  

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