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「もういい、今は何も考えたくない。寝る」
「……は?」
「紘野さんここから離れるなよ。このまま放置して俺が襲われたら末代まで呪うから」
勝手な宣言の後、アイマスクの代用となるその手首を捕まえる。細身なのにしっかりした力強い手首。うーん、この。
こいつの力なら簡単に振り払える程度の拘束だが、なんだかんだで付き合ってくれるのでは、という淡い期待を抱いている。
去年の末まで、紘野とは一般寮のルームメイトとして寝食を共にしていた仲で、わりと全幅に近い信頼を一方的に置いているわけでして。
「……別に寝るのは構わねえが、」
「ん?」
「お前んとこの会長が向かいの屋上で三年に囲まれてるって聞いても、安眠できんのか」
「……ん!?」
嘘 で し ょ う。
つーかバ会長学園にいたのかよ! という驚きと何しでかしてんだあんた!
という怒りがない交ぜになって跳ね起きようとしたエネルギーは俺の頭を上から押さえる紘野の片手になんなく阻まれてしまった。
俺の全エネルギー<<大気圏<<紘野の片腕ってそんな馬鹿な話があってたまるか。
こんなの喧嘩したら一発KOだわ。不良怖いわ。
そんなことを考えていたら寝転んだ俺の腰元の両サイドが何かに挟まれる。視界は相変わらず閉ざされたままなのでどういう体勢になってるかわから、いや待てよまさかこれは。
「なに……退いて紘野さん」
「静かにしろ。見つかる」
「何にだよ」
「揉めてる相手の方」
あれもしやこれは、目隠しされたまま覆い被さられている?
呼気がいつもより近い気がする。
鼻腔を擽るのは柔軟剤とシャンプーの匂い。
普通に見つかるよりこの体勢で見つかった方がいろんな方面に誤解を招きそうなんですがそれは。
というか、バ会長が関わっているとなると連帯責任で俺まで怒られるからどっちにせよ止めなきゃマズイんですけど。ほんとマズイんですけど。こんな悠長に転がってる暇ないんですけど。
つーか何やってんだあの馬鹿は……! だんだん腹立ってきた!
「退け紘野……!」
「寝るんじゃなかったのか」
「ンな暇あるか! 会長が起こした問題の処理は大方俺に回ってくんだよ! 早く止めねえと……」
尻拭いとして課せられる後処理(とにかく面倒)。
風紀の迷惑そうな対応(俺が謝るはめになる)。
そして藤戸氏の若いなあ的な他人事同然の態度(これが何気一番腹立つ)。
だけならまだいい。
だがもしそこで会長と委員長が顔を合わせることになってみろ、胃薬案件では追い付かない事態が起きる。
それは全力で回避しなければ。
会長の問題を風紀が出動する前に収束させなければ。
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