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紘野さんの目安どおりきっかり15分待った俺は、そうして目的の屋上に到着。
押し開けたそこは後の閑散とした空気が広がり、ベンチに腰掛ける男の広い背中を捉えた。いつも後ろに控える義務を課されている俺からすれば、至極見慣れた背中だ。
「会長」
「あ? ……やべ、」
ゆっくりこちらを見上げた表情には見覚えがあった。面倒なやつに見つかった、ってときのカオ。
サボり常習犯を無事捕らえた瞬間の、残念ながらこちらもよく見慣れた顔だ。
会長の足元に転がっている複数の屍が目に入って、途端に頭が痛くなった。
どうやら紘野くんが駆けつける前に、会長に絡んでいた生徒の何割かはすでに沈んでいたらしい。
いやあいつのことだから駆けつけるどころかゆっくり歩いて堂々と到着しあっさりと残りの不良を回収したんだろうが。マイペース過ぎて困る。
溜め息をひとつ、バ会長が座るベンチの前まで歩き、見下ろして腰に手をあてたらいつもの説教スタイルの完成だ。
何が嬉しくて年上を叱るスキルを身に付けなければならないのか。
表情を消し、淡々と口火をきる。
「いちから、説明、して、下さい」
「……俺は悪くないぞ」
「私が求めているのは弁解ではなく説明です」
「お前先に言わないと聞かないだろ……」
バ会長の足元にはそれはそれはガタイのいい男共が1、2、3……まあ、両指程度の男の数。まーた、派手にやりやがって。
倒れている生徒の顔を確認してみるとおやまあこれはこれは……。
「二日前、あなたの親衛隊に買われてルイに危害を加えようとした徒党ですね。ほとぼりも冷めぬうちに問題を……」
「へえ。停学処分すら与えなかった結果がこのザマだ。風紀の判断ミスだな」
「それは、証拠不十分でしたし、何より迎え撃ったルイが過剰防衛だったからでしょう。第一、そもそもの原因は、あなたが親衛隊を管理せずこの一週間姿を眩ましていたせいなんですけど?」
親衛隊組織による特定生徒をターゲットとした集団リンチを、学園では"制裁"と呼ぶ。
校舎内には監視カメラが張り巡らされているので、一番よくあるのは陰口やSNSでの口撃だったり、裏から手を回して家業にダメージを与える方法。
さすがお坊ちゃんたちというか、自分が不利な立場にならぬようにとそのあたりは上手く隠蔽する。
しかし時として、強硬手段に出る輩も決してゼロじゃない。
志紀本先輩が風紀に入った時期から取り締まりが強化されたらしく、ここ一年の制裁件数は着実に減少していたのに……王道が来て以来一週間ですでに三件。
そのうちの一件が会長の親衛隊。
この惨状を引き起こしたも、恐らく制裁の余波だ。原因が生徒会長というのがまた、頭を抱えずにはいられない。
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