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「言いたいことがあるならいつもみたいにハッキリ仰ればいいじゃないですかこの色欲魔」
「そう気を荒立てるなよ、可愛くねえな……」
「……。もういいです、あなたがそのつもりならこちらだってボイコットも辞さないです。あることないことを各所に吹き込んで一般生徒に戻りますから。その方がせいせいすることも………、ぅ゛っ」
「!」
くらり、目の前が急激に暗転して、激しい目眩に襲われた。青々とした空模様が視界いっぱいに映りこむ。
後方に倒れかけたところを、すぐさま腕ごと前へ引かれた。
ベンチに座った会長の膝の上へ、倒れ込むように身体をくたりと預ける。ぐらぐらと視界が揺れて気持ちが悪い。何かに捕まっていないと振り落とされてしまいそうだった。
おかしいな、タツキほどは頑張っていないはずなのに。平気なのに。
「あー……、悪かったな、負担をかけて。しばらくは学園 を空けることはねえから、安心しろ」
「……絶対でしょうね」
「絶対絶対。神に誓う」
「究極に嘘っぽい」
「なんだと」
最悪。ほんと最悪。
もっと徹底的に責め立てて会長には気を改めさせなきゃならないのに、こんな、弱ってるところを見せて同情を誘うようなやり方、絶対取りたくなかった。むかつく。
さら、と前髪を掻きあげられて、文字通り目と鼻先に会長の顔。深海のようなふたつの瑠璃色が、静かに俺を窺っている。
「顔色が悪い。満足に寝てないだろ」
「誰のせいだと思ってるんですか。離れて下さい」
「お前が俺の膝から退かない限り、離れようがないんだけどな」
「…………退きます」
屍の中心でメロドラマ染みたこの状況、どう見ても薄ら寒い。鳥肌たった。
会長の肩を支えにして、二本の足でしっかり地を踏みしめた。一度疲労を自覚してしまうと身体は正直で、自分のものとは思えないほど足元が頼りない。
まあ、でも……マツリ達も、会長も、こうして直接言葉を交わせばちゃんとこちらの現状を読み取って謝罪ができるのだし、これならもっと早く話し合うべきだった。
この一週間、完全に働き損だ。
「とりあえず……ここの処理はあなたも協力してください。風紀……は、難しいとして、まずは彼らの怪我の治療と療養を。保健委員を数人派遣要請していただければ、っわ、」
「療養が必要なのはお前の方だろが」
「は……、ちょっ、と、待っ」
「第二保健室でいいな? ちなみに、お前に拒否権はねえ」
掴まれた腕をグッと引っ張られ、俺の制止をまったく気にも止めず校舎へと入っていく。
頼むから止まれ。
話せばわかるから止まってくれ!
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