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* * *  濡れ場の観光名所とされる第二保健室は今、静穏に包まれていた。  室内には規則的な寝息をたてる男が一人と、それを見守る男が一人。  前者、学園の生徒会副会長を務める支倉リオ。そして後者、同じく生徒会にて会長職を務める神宮奏だ。  保健室にはもはや常連と言える会長だが、今日は下心一切ナシの善意溢れる行動が彼の足を動かした。直属の後輩の不調を見逃すほど彼とて鈍くはない。 「いつもこうだったら可愛げもあんのになァ……」  くうくうと深い眠りに落ちる副会長。影を作る長い睫毛も、薄く開いた唇も、無垢な白い喉も、無防備なまま惜しげなく晒されている。非常に目の肥えた会長から見ても、この容姿ばかりは何を取っても上玉だと言える。  ただ、会長自身、性に対して放蕩で無節操な自覚はあるが、所謂「無理矢理」は好まない。そこを把握しているからこそ、人一倍警戒心が強いはずの副会長も、会長が傍にいる状況でもこうして素直に眠りにつけるのだ。  その間には少なからず、信頼関係が成立している。 「……タツキか」  不意に、ピロン、と短いメッセージ音。  差出人は生徒会書記からのもの。  会計と補佐が生徒会室に帰って来た、しかし副会長と連絡が取れない、という内容のものだった。  その副会長は現在、疲労の末に睡眠中。  そして書記も自分の役職以上の仕事をカバーして相当お疲れだと聞く。  書記とは幼い頃からつるんでいるだけに、書記の性格は熟知している。一人だけ転入生を受け入れられない中で、どうせ文句のひとつも溢さず働き詰めなのだろう。  この後輩だってそうだ。  書記と反対でズバズバ物を申すタイプだが、プライドが高いぶん、仕事への責任感もやたらめったら高い。  まだ、やることは少しばかり残っているが、そろそろ生徒会や学園の方に目を向けてやる必要がありそうだ。  二人ほどではないが野暮用を済ませて少々お疲れぎみの会長は、その口から深い深い溜め息を吐き出した。  ポケットから探し当てた保健室のスペアキーを、副会長の目につくよう枕元へと置く。自分はもうひとつ持っているしこれなら鍵を閉めて出ていける、とひとり頷く会長。  無法地帯な保健室は、鍵を開けたままにしておくと誰が入ってくるか分からない。  そんなところに副会長を無防備に寝かせておけば、きっと特殊な学園特有の惨事が待っていることだろう。 (そうなれば"アイツ"がキレっからな……)  ちなみに、目覚めた副会長はこの鍵の存在に対し、少し前に入手した屋上の鍵ほど喜びはしなかったが(だって俺保健室使わないし)、タダで貰えるものは貰おうというスタンスに従ってソレを懐へ忍ばせるのだった。  

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