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 本館の最奥に構えられた生徒会棟は、『棟』と分類されるだけあって、校舎とは独立した建造物にあたる。  イメージとしては、レトロな洋館といったところか。  かといって古びた印象はなく、光がよく入るようにと窓が多く作られているので、早朝や雨上がり直後の光景は神々しさすらある。ステンドグラスを通して差し込む光は幻想的のひとことだ。  まあ、壁を赤々と染め上げる夕方はちょっぴり怖いときもあるけど。  円柱型の背の高い建物で、全部で四層。  一階は過去分の膨大な書類を保存した資料室やリネン室などがあり、校舎と唯一繋がる二階は応接室・執務室。  三階には役員それぞれのプライベートルームが完備され、四階はだだっ広い物置状態。 「ふぅーー……」  三階の奥から二番目左手、とある一室。  防音機能が施された扉を閉め、長い長い一呼吸。  レトロな雰囲気を裏切らないその部屋には、簡素な(といっても十分寝心地の良い)クイーンサイズのベッドがひとつと、デスクに書棚、コンパクトな冷蔵庫、ティーセットや参考書などを収納したキャビネットがあり、2つの出入口はユニットバスとクローゼットに繋がる。  俺、生徒会副会長専用のプライベートルームだ。  これが役員一人一人に与えられる特典だというのだからほんっとに金の掛けどころを間違っていると思う。  ちなみに、他の役員たちは自分好みに部屋を改装している。双子の部屋は両方ともファンシーだし、タツキの部屋は和洋折衷だ。俺は寮の部屋から小物をいろいろ持ち込んだくらいで、シンプルな初期状態のままだが。  ……と、ゆっくり寛いでいる暇はなかった。忙しい人だから、タイミングを逃すとすぐに繋がらなくなってしまう。  とりあえず深呼吸。  発信ボタンを押し、ちょうど4コール。 「あ……委員長? ご多忙中恐れ入ります、今、お時間は宜しいでしょうか」 『ああ。忙しいときに悪いな』 「いえ、そんな。協力をお願いしているのはこちらの方ですから……」  電波越しに耳を擽る美声に緊張感を覚えながらも、迷惑じゃないようで良かったと胸を撫で下ろした。  スツールに腰掛け、メモ用の紙とペンを用意し、手早く要件をまとめる。 「早速ですが、施設側との打ち合わせで回答が得られたので、そちらの件で相談がいくつかあるんですが……いいですか?」 『いい。言ってみろ』 「まずは───……」  電話の相手は、風紀委員長である志紀本先輩だ。  先日のやり取りで協力を確約してもらって以後、この人とは密に連絡を取りあっている。  特に、目前に迫る5月恒例の新入生歓迎祭の準備に至っては、この人の協力がなければ俺一人では到底手が回らなかっただろう。  土日を跨いだおかげで、新歓準備も大詰め。この数日間本当に大変だったが、無事なんとかなりそうだ。  

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