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やはり面倒ごとに首を突っ込む前に固辞すべきだと再び抗議しようとしたが、予想していたのか、会長は俺を封じる手を用意していたらしい。
俺が絶対に看過できないその名を。
「今回喧嘩を売られた原因には、佐久間ルイが関与している可能性が高い。
………お前等みんな、気になるだろ?」
本当に、スキならば。な。
実際にそう言われたわけではないのに、腹を比喩的にも物理的にも探られたような、肌をなぶるようなプレッシャーを感じる。
俺だけ誘導尋問を受けてる気分だ。
しかし、これで下手に断るわけにもいかなくなった。
真実、「副会長が佐久間ルイに好意を向けている」のであれば、どうあっても聞き出すだろうし、佐久間ルイを知る絶好の機会だと思うはず。
それにしても厄介な案件を持ってきてくれたものだ。
実をいうと、志紀本先輩へ協力を仰いでいたこの数日、「万が一邪魔されたら鬱陶しい」との理由で先輩が理事長経由で『部外者の生徒会入室禁止』の言質を取ったところだったというのに。
一度関わりを持ってしまった以上、都合が悪くなったからといってそう易々と逃げることはできない、ってことか。
「……分かりました、とりあえずこの件は保留で。6月中旬の生徒総会と7月頭の期末考査に支障がないタイミングならば、私も招集に応じましょう」
「あはは、言うと思ったー」
「期末の前に中間だよりっちゃん……」
「ボク今回の範囲不安だなあ……」
「そうだな、お前等勉学は怠るなよ」
「「「「誰のせいだと」」」」
おっと、口の悪さが表に出てしまった。ちょうどよくハモったのでまあいいか。
こうして全員が仕事に戻り、サボり組がようやく一週間分の遅れを取り戻したのが一時間後。
「やっと終わったー」「まあ新歓がまるで白紙状態だから素直に喜べないけどねー」「ははー」と嘆く彼らに気付き、そういえば伝え忘れていたなと、くちを開く。
「言い忘れていましたが、新入生歓迎祭の企画は勝手ながらこちらで進めさせていただきました。今週の休日、場所は隣県の遊園施設を予定していて、新聞部には明々後日号外で全校生徒に通知してもらいます」
「「「「え」」」」
「は?」
「施設内では原則として二人一組、組み合わせは明々後日のSHRで各クラス籤を引いていただき、放課後ペアの発表を…………どう、しました?」
ぽかん、と口を空ける四人の反応とは別に、会長はやや怪訝そうに眉を顰めている。
あれ、なんか不味いことした?
まさか遊園地は不評?
脳内ではてなマークを飛ばしていると、会長の目が疑い深く光る。
「…………手配は、お前ひとりで?」
「え? ああいや、さすがに一人では。ですよねえタツキ」
「……ん? う、うん。……??」
突然話を振られたタツキが、(おれは手伝ってないよ??)みたいな顔をしつつも空気を読んで同意してくれた。
そうだ、まずい。
志紀本先輩の名をここで出すわけにはいかない。
冷や汗をたらりと流しながらもポーカーフェイスに徹していれば、上手いこと誤魔化せたのか、会長がため息つきで前髪をかき揚げた。
「……なら、取りかかる前にこちらに連絡を寄越せ。だから隈なんかこさえてんだろお前は、馬鹿か。馬鹿か」
「二度も言わなくたって……、あ、いや、すいません」
そんな説教を訊いて咄嗟に謝った自分の、その口元が綻んでいたことは、俺と彼らを隔てていたパソコンの画面しか知らない。
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