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 教室内にいる生徒がまばらなせいか、鞄を自分の机に置いて簡単に整理したリウは再びこちらを訪ねてくる。  俺は置き勉する派なのでロッカーに行きたかったけれども、どうせ混雑しているから仕方なくあいつの話を聞いてやろう。  大方フラストレーションの末の萌え語りだ。  こいつが今誰と誰の掛け合わせに嵌まっているかを知れば、事前にこいつの楽しみを排除できるかもしれない。  はいはい、そう睨むなよ腐男子。 「僕らの情報網に全然引っ掛からなかったんだけど、もしかしてあの委員長に協力でも要請した?」 「まあ、そうだけど」 「その間どのくらい密に連絡取った? 直接?」 「お前が期待するようなことは一切ねえよ。企画のノウハウ教えてもらったり、日曜は遊園地の下見に付き合ってくれたくらいで………おい待て何故それを聞く」  ついつい答えてしまった。嫌な予感しかしない。  そして俺の前の椅子に腰掛けた幼なじみは頭を抱えてうんうん唸っている。その上「行事前後はリア充の繁殖期」云々独り言を呟いている。  その様子を引いた目で見ていたら、再び顔をあげた腐男子はけろっとした顔で馬鹿なことをのたまった。 「風紀委員長は貴重な総攻め枠の有形文化遺産だから固定するのは惜しいけど、うん、………ありがとうございます」 「……おい何の礼だ。妄想の餌か」 「だって下見ってつまりデートじゃん。既成事実じゃん」 「SP二人を同伴した下見のどこがデートなんだよ」 「SPはSPできっとデキてるからそれは紛うことなきWデート。ご馳走様でした」  またこいつは馬鹿なことを……。  休日に遠出と考えれば腐男子の思考回路も百歩譲って理解はできるが、今回の下見は最初から最後まで「仕事」一本だ。  それこそ移動手段や移動時間の見込み、宿泊ホテルの部屋割や細かいルール、施設側への挨拶、すべてにおいて綿密な打ち合わせが行われた。デート、なんて甘ったるい空気、一ミリたりとも起きてない。  先輩が貴重な休日を割いてまで付き合ってくれた借りを、愚かな妄想族風情に搾取されてたまるか。 「馬鹿な妄想はやめろ、俺今どんだけあの人に借り作ってると思ってんだ」 「その借りを身体で返せばいい」 「脳内で勝手にゲスい妄想すんな」 「脳内に留まらずとも需要はあるよ??」 「却下」  呆れた。開き直り早すぎだ。  普段はあの委員長を警戒気味で面識を持ちたがらない(そりゃあ趣味のために裏でイロイロやってるからな、こいつ)くせ、自分の趣味が枯渇したらこれだ。  目の前に供給があるから仕方ない、とか言われても。  俺と先輩で妄想って。  いや、ナイから。ありえねえよ。  

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