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 俺がロッカーから授業で使うテキストを持って帰って来た頃には、教室の座席はほぼ埋まっていた。  ちなみに未だに空席の紘野から返信は来ない。うん、知ってた。  双子やマツリの入室で一時騒がしくなりつつも、クラスメートの話題は歓迎祭の話で持ちきりだ。 「えー、おはよぉございまーす。……若いやつらだけで楽しみやがって。なんで教師は同行不可なの? 差別?」  大あくびをしながら入ってきた担任・藤戸氏が挨拶早々生徒の前で愚痴を垂れる。そうか、怠慢教師は来ないのか。これは朗報。  朝のSHR、といっても話題はひとつ。  歓迎祭の話が出た途端盛り上がったクラスの状態を見て、進行を中断された司会役の学級委員長・クラスメートAが眉根を寄せるのも無理はない。  遠足前の小学生かよ。  雑談に耳を傾けると、何に乗りたいとか誰とペアがいいとか、そんな他愛もない話題。  俺の呼び名もちらっとは出たようだが、俺のペアはすでにエデンの予定だからそこは期待に沿えないだろう。  このクラスの広報委員がAと入れ替わるかたち、パンフレットの配布と説明、そして籤の準備に取りかかる。  籤が入ったボックスは全部で四つあり、一つは普通のボックス、あとの三つはボックスの側面に「絶叫系NG」「ホラー系NG」「ファミリー向けNG」と書かれている。苦手分野別にしたらしい。  順番待ちの最中リウがにやにやしながらこちらを見ていたが、俺はどれを引いても相手はエデン一択なので手近なものをテキトーに。紘野の分もついでに。 「全員引いたー? んじゃ放課後、講堂でペアの発表があるから。部活の時間も見合わせるらしいから皆来いよー」 「うい、ごくろーさん。あ、今回の企画、魔王様ちょー頑張ってたから。生徒諸君拍手~」  藤戸氏が余計なことを言ってくれやがった。なんて公開処刑。  しかし大喝采が起きたので空気を呼んで軽く会釈をするも、何故か教室中がシンと静まり返る。何か言わないといけない雰囲気らしい。  仕方なく席を立ち、ありきたりな言葉をふたつ。 「喜んでいただけたなら、甲斐がありました。大いに、楽しんで下さいね」  さらに拍手が沸き上がる中、フン、と鼻を鳴らす音が隣から。相手に気取られない程度に視線を流す。  まったく、嫌われたものだ。思い当たる節もないのだが。  そこには我関せずとばかりに読書を始めるクラスメートAの姿がありましたとさ。 *

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