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放課後まであと数時間。広報委員が忙しなく働く講堂・放送室にて。
ざわ、と部屋の空気が揺れた。
放課後の発表のためのすべての準備をしていた全広報委員が、さきほど控室に入ってきたひとりの人間に一斉に注目し、そのほとんどが顔を赤くしたり、または爛々と目を輝かせたり、その姿に見惚れたりと、如実は反応を返す。
我先にと駆け寄った大きな影は、同じく『役職持ち』である広報委員会長三年・伊勢 のものだ。
「い、委員長……! どうしたんですか委員長! 今日も最高にクレバーでカッコいいですね委員長!!」
「わかった、わかったから、少し時間を貰っていいか」
「わっかりました! ささ、場所を移そうか! 諸君ら、決して着いてくるではないぞ……」
テンション高く風紀委員長たる志紀本棗に懐く伊勢は他の役員に釘を差しながらも、放送室のすぐ近くに設けられた比較的狭い別室へ移動し、座り心地がよさそうな椅子をどーぞどーぞと明け渡す。
その忠犬ぶりに苦笑を漏らしつつ、委員長は時間も惜しいとばかりに本題を切り出した。
「忙しいところ、済まない。発表前に少し、組合せに口出しをさせて貰う。無理を承知で言うが、」
「わかりやした! どうぞ!」
「……いや、そこは本来駄目だろう。そう簡単に頷かれてもこちらが困る」
疑念ひとつ抱かれることなく快諾され、自分が切り出したことではあるものの一応やんわり窘めておく。
否を返されても言いくるめる自信はあったが、校内法規として、それから自分の立場としてはあるまじき提案をこうもあっさり認可されては、『役職持ち』の信用が危ぶまれるというものだ。
「委員長が口出すってことは、委員長が必要だと思ったからっしょ? じゃあ心配は要らない。遠慮なくどうぞ!」
「……、そうか。では一応建前を」
「はァい」
「例の転入生の、親衛隊及び一般生徒への影響力を慮 った結果、歓迎祭の進行に何らかの支障を来す可能性があると判じて、先んじて裏から手を回したい」
「あー、噂の佐久間クンね。なるほど確かにー」
「……」
諾 なう伊勢の調子は紙より軽い。
その影響力を生み出した原因の半分はお前もまったくの無関係ではないだろう、と思いはしても、口に出したところでもう後の祭りだ。
広報委員の長を務めると同時に、伊勢は複数の文化部の部長をも兼任するほど活動範囲が広く精力的な人間である。
その活動のうちの2つ、写真部と新聞部は、ここ一週間と少しの短期間で、大層なお祭り騒ぎだったという。話題は当然、台風の目となる転入生に関連したゴシップ記事やスクープ写真。
それらがなければ、生徒の混乱はまだマシだっただろうとは思う。
とはいえ───「生徒が今一番知りたいこと」を最も求められる新聞部の、その長 たる人間が、他者が想像するより窮屈な立場であるとわからないほど、委員長の目も曇ってはいないが。
「ということで、発表前に何名か、ペアの結果を開示して貰えるか」
「おっけー。歓迎祭は委員長様の言うとおりってことね! あれ、でも委員長、そいえば籤引いた? まだ名前見つかってないんだけど」
「今回参加は見送る」
ええー……。と、あからさまに寂しそうな顔をする伊勢の反応を前にして、数日前、彼ほどわかりやすくはなかったが残念そうに声を落とした電話先の存在を思い出した。
しかし一端思考から切り離し、数名の生徒の名を挙げていく。
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