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「まずは例の一年、佐久間ルイのペアから」
「はい、この方ね」
クリップボードから目的の名簿欄を探し出した伊勢が、ボールペンの先でとある項目を指す。佐久間ルイ、と名が印されたその隣。
委員長は心の中で嘆息しながら、「変更」と短く呟く。「あ、そう?」と一言意外そうに漏らしはしたが、逆らう気もない伊勢は快く指示に従う。
「次。園陵チトセと支倉リオ。この二人をペアに指定したい」
「副委員長さんと副会長さんかあ。そういえばあなたのパートナーの副委員長さん、実は素行の宜しくないと噂の生徒と今回ペアの予定だったんすよ。それを未然に防ぐってことは、私情を挟んだと解釈しても……?」
にやにや、と邪に笑う伊勢に対して特に否定も釈明もせず、好きに邪推させる。
自分の補佐的立ち位置であり長年親交深い副委員長と「そういう仲」だと疑われることはもう慣れてしまった。そして、そう認識されている方が却って都合が良いことも。
「へっへぇ、やっぱお似合いだなー」
「……次、生徒会会長と生徒会会計。ここ二つの親衛隊は学園内で今最も気が立っている。例の一年に限らず、一夜の間に関係を持ちそうな相手はなるべく除外したい」
ペラペラと、伊勢が名簿を捲って名前を探し当てる。「あっちゃーどっちも押しに弱そうな可愛い子がペアだ」と、これまた軽い調子で伊勢が後頭部を掻いた。
生徒会と各委員会、立場は同じ『役職持ち』に分類されども、伊勢にとっての"生徒会の人間"は直接的な交流よりも紙面で扱う機会の方がずっと多い。
今のように他人事同然、といったリアクションになっても、悪気は決してないのだろう。
「えーっと、じゃあ、会長さんと会計さんは誰と組ませるの?」
「綾瀬は誰とでも上手くやるだろうから、親衛隊から目をつけられそうな相手じゃなければ誰でもいい」
「会長さんの方は?」
「そうだな……。二葉あたりが適任だな」
「二葉くん? なんでまた」
「あの男には、身内が一度でも狙った人間を口説く趣味はないからな」
「……もしかして会長さんが嫌がりそうだから?」
「ああ、イヤガラセだ」
「やだかっこいい」
さらにいくつかの名前を挙げ、とんとん拍子に話が進む。
何せ伊勢の方がなんの疑いもなく許可を出すのだから、委員長としては張り合いがなくて、少しばかり物足りない。
(───やはり、あの。)
(反抗的なハリネズミが相手でなくては)
そう考えた矢先、とある教室のとある副会長がぶるりと悪寒に震えたことを、委員長は知らない。
「……以上だ。手間を取らせた」
「委員長のためなら俺っちじゃなくても手間取り放題だって! ……あ、でも」
用が済めばあっさり部屋を去ろうとする委員長の背中を惚れ惚れとした表情で見送る伊勢だったが、ふと思い出したように引き止める。
「この、佐久間くんの元々の相手だけど。なんで変更? 別にそのままでも大きな問題はない気もするけど───栗見ちゃんって」
真顔で問う伊勢に対し、委員長はただ、全てを見透かすような笑みをその唇に浮かべたのだった。
「俺は幼馴染み諸共、かぶりモノを剥がす趣味はない。例えその幼馴染みにさえ隠す蟠りだろうと」
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