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*  現在、講堂でペアの発表が滞りなく行われている。全校生徒が集まっているとあって、盛り上がり方が尋常じゃない。  案外、生徒にとっては誰がペアかはさほど重要ではなくて、こういう行事前の空気に高揚している部分が大きいのかもしれない。  ただ、不意に来る『別名持ち』や『役職持ち』が発表されたときの絶叫は何とかしてほしい。俺の耳が死にそうです。  つうか俺と園陵先輩が発表されたときに「副会長×副委員長キタ!」「いやあの二人はホモ百合だろjk」とか叫んだやつ誰だ。誰が百合だ覚えてろよ。 「あ、紘野。遅えよ。籤は引いといた」 「ん」 「僕らのはもう分かったけど、紘野くんの発表はまだだよ。間に合って良かったね」  俺とリウが熱狂から離れた出入口付近に佇んで静観していたところ、(寝起きの)紘野さんがこちらに気付いてマイペースに近付いてくる。おかしいな、いま放課後なんですけど?  その間にも壇上ではペア割を発表する広報委員長がマイク越しにうざいテンションで場を一層盛り上げていく。  ブラス部の演奏がそれを助長させる。 『っじゃ、最後のペアね! 3-S、我らが《緋彩(ひいろ)の君》と---2-S、《蒼薇の君》!!』 「……わあ、”同ランク”!!」 「《蒼薇(そうび)》様と御一緒なら……」 「《(くれない)》様が相手ならしょうがないか……」 『よっし、発表終わり! ということで、皆、それぞれの相手と楽しもうなー!』  タイミングよく発表された《蒼薇》の君こと紘野は、自分と同ランクの「抱きたいランキング3位」の人間とペアらしい。  『別名持ち』同士ということで妬む生徒もそう多くはないけど、……いや、別にいいけど。 「なに、どしたのリオ。嫉妬? 嫉妬?」 「何言ってんだ馬鹿」 「冗談。それにしても、ツバキ先輩とかあ。いいなあ」  かくいう紘野は壁に背をつき欠伸をかみ殺している。訊いちゃいねえ。  《緋彩の君》、または《紅》様と一般生徒から呼ばれているツバキ先輩とは、一般寮の寮監長のことだ。  少なくとも親衛隊や素行が悪い生徒などがこの無口で排他的な男とペアになるよりは、まだ顔が広くてコミュ力高めのあの先輩がペアでマシだったとは思うけど……。 「紘野お前、……喰われんなよ?」 「それはねえ」  寝起きで低血圧な不良に鋭く睨まれてしまった。だがしかし、あの先輩はタチにもネコにも受けがいい容姿をフル活用する真性のゲイの方だ。  まあ俺はちょっと、性格的な面で衝突しやすいというか、平たく言えば犬猿の仲。 『-あ、言い忘れてたけど、各アトラクション制覇後に貰えるピンバッチを全部集めると、温泉券のペアチケットが贈呈されまーす。まあ一組だけで全部を回るのは難しいだろうから、事前に他の組と協力してもオッケーでーす。しかもその日限定で授業免除の特典つき! 挑戦してみてなー!』  なるほど、スタンプラリー的な催しか。  金持ちのご令息様方からすればいつでも行ける温泉券よりも、出欠には厳しい授業の免除の方がおいしい特典かも。  一方、一般家庭ですくすく育った俺とリウは互いにハッと顔を見合わせる。 「……お前、今年の母の日、莉奈さんに何か贈った?」 「ホモネタくらいしか……リオの方は? 麻紀さん、お誕生日はもう過ぎたよね?」 「母さんには連絡だけ……」  息子という生き物はいつだって母親には弱いものである。特に一年以上家を空けていると、家事炊事諸々も合わせてその有り難みが身に沁みるものだ。  この学園から俺らの地元は気軽に帰れる距離でもないから、余計に。  リウの母親・莉奈さんにもかなり世話になったし、ママ友である二人に贈りつけるためにも、今回はちょっと本気で遊び倒しますか。 「「ということで今回は一時休戦な(ね)」」 「パンフはもうチェックしたか?」 「うん。じゃあ僕はCブロックから回ろうか」 「俺はAな。健闘を祈ってる」 「お互いね。全種制覇してやんよ」  ということで今回腐男子とは休戦協定を結び、本格的に遊ぶことにしました。  リウはCブロック、つまりは俺のとある超絶苦手分野が犇めく区域を率先的に潰してくれるという。お前味方ならほんと頼りになるな。味方ならな。  遊園地なんて中学の頃以来だし、思う存分遊び倒さなきゃ損だ。  化けの皮が剥がれかけているリウと軽快に打ち合わせる傍ら、紘野がなんだこいつらと引いた目でこっちを見ていたことには、さすがに気付きませんでした、はい。  

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