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「上ーがり」
「マツリはまた勝ち逃げか……」
「私も上がりです」
「何だと」
バ会長の負けず嫌いが災いして何戦か付き合わされるはめになったものの、しかし距離もそう遠くないこともありそろそろ到着とのこと。
マツリに勝ち逃げされたのは悔しいが、結果的に会長を全敗させることに成功。
ただ、この人回を重ねるごとにどんどん手強くなっていくから早めに切り上げられてよかった。頭はずば抜けてキレるからな。時に生かす方向性を間違えてはいるが。
「何乗ろっか?」
「んー決まんない」
向かいの席で楽しそうにひとつのパンフレットを覗き込む双子の兄弟に目を向ける。
この二人は正真正銘の偶然によってペアになったらしい。双子の引力恐るべし。
今日の彼らの髪型は気合いの入った編み込み。早起きしてマツリにセットしてもらったらしい。王道にも見習わせたい美的感覚だ。
さらにひょこりと、双子の上からパンフを覗き込むのはマツリ。
ほのぼのとした光景を微笑ましく見守っていれば、頬を指先で軽く弾かれた。地味にいってえ。
俺の隣……は現在一人だけなので、要するにバ会長から。なんですか一体。
「何するんですか」
「その保護者面やめろ。あいつらみたいにもっと楽しそうに振る舞えねえのか」
「そう言うあなたも普段と変わらないじゃないですか。タツキなんて楽しみで昨夜眠れなったそうなのに」
「代わりに今寝てるがな」
「……あ、いつの間に」
くぅ、と会長の逆隣で寝入るのはブランケットを頭までかぶった大型犬。
おかしいな、いつの間にそんな深く眠り込んで。トランプは何の滞りもなく回ってたはずなのに。寝ながらやってたのかな???
最近の過労もあいまってタツキの状態は一番憂慮していたけれど、仕事量を調整して、生徒会もほぼ元通りに修復したことがよかったのか、どうやら俺の心配は杞憂に終わったらしい。
ほっと胸を撫で下ろした矢先、またもや会長が人の視界に無断で入ってくる。
「常々思っていたが、お前は保護者か」
「それを尋ねるあなたは私の保護者か何かですか」
「可愛げねえな……もっと、楽しみだって顔できねえの」
「会長が出来れば考えます」
「これでもわりと表情に出している。遊園施設というものは生まれて初めての経験だからな」
なん……だと……?
「……なんだその哀れんだ顔は」
「今まで、すみませんでした……」
「待て、目ェ逸らすな。その同情の眼差しヤメロ……!」
「会長、静かにー。タツくんが起きる」
そんなこんなで、無事に到着。
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