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 俺、もう学園に帰りたくない。ずっとここにいたい。  むしろ遊園地に永久就職するわ。 「…………申し訳ありません、わたくしの我が儘で、子供向けの乗り物にまで付き合わせてしまいまして……」 「いえいえいえ、お気になさらず。全アトラクション制覇を目指しておりますので、もとより行く予定でしたし」  入園して早数時間。  メリーゴーランドもコーヒーカップも、まあちょっと気恥ずかしかったけど、そこはもう気持ちの持ちようだ。楽しかった。  覚えているのはメリーゴーランドの白馬に腰かけた先輩の横顔が美人だったとか、コーヒーカップで目を回す先輩が可愛いとかそんな。あーー楽しい。  周りの生徒にめっちゃ写メ撮られたけど先輩とだからいいや。これ端から見たら絶対彼氏と彼女に見えっからね? 写真部ちゃんと撮った? 後でくれ。  俺ァもうダメだ。頭が。  入園後、俺と先輩はとりあえずどこから回ろうかと話し合い、せっかく一泊二日なので一日目の今日は散策とサブメインのアトラクションを回ることに決定した。  本格的な絶叫系を網羅するのは明日の予定だ。待ってろよ超回転コースター。  かくいう俺はこの通りはちゃめちゃにテンションが高過ぎていっそ気持ちが悪い。ドキドキで壊れそう。  女扱いも過ぎると拗ねてしまわれるので、勿論言動には気を付けているが、園陵先輩の女子力があまりにも高すぎるので正直危うい。  ただ、射的コーナーではヤバかった。  さすが弓道部部長(銃と弓じゃ勝手が違うだろうけど)、得物を持った途端にエモノを狩る研ぎ澄まされた空気に豹変するその瞳が好きです、お慕いしています。  嬉しい時間はあっという間で、ファミリー向けエリアをのんびり満喫していれば、いつの間にか時計は昼時。  可愛らしい周遊列車に乗って足休めをしつつ、パートナーの疲労度も忘れず確認。 「だいぶ連れ回してしまってすみません、先輩。お疲れではないでしょうか?」 「ご心配には及びません。とても楽しいです」 「何かあれば、無理せず仰ってくださいね」 「ふふ、分かりました」  彼女の体調チェックはこまめにな。メモしておけよ童貞ども。  と、心の中で園陵先輩の野郎(ファン)共を牽制しつつ話していたら、感嘆符が漏れそうなほど美しい微笑みがこちらに向けられた。嗚呼、後光、後光が見ゆる。   「……支倉様は、ここに来てとても高揚しているといいますか、普段よりさらに活動的に見えます。遊園施設、お好きなのでしょうか?」 「意外ですか?」 「少しだけ。支倉様は大人びていらっしゃいますので。ですが、今日の貴方は年相応で……愛らしく、思えます」 「園陵先輩こそ今日は一段と素敵ですよ!」 「そうですか……? でしたら、支倉様とご一緒させていただいているおかげかもしれませんね」  え、笑顔が眩しい……。愛らしいのはあなたです。  

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