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心から、志紀本先輩がペアを操作してくれて良かったとひしひし思う。
癒しだ。ただただご褒美だ。
園陵先輩が相手だと、いつもの「副会長」らしい愛想を振り撒く必要が最低限しかない。最近の刺々しい学園情勢から離れられて、気楽でいい。優しいひとと一緒にいると、自分まで優しくなれる。
ストレスのない環境が久しく感じられて、この貴重な時間がありがたい。
つうかこんなサービス過多で大丈夫? 後々とんでもない不運が待っていたりしない?
「持ち上げておくように事前に吹き込まれた、とかじゃないですよね?」
「え? そんなことはありませんが……ちなみに、どなたを想定されてます?」
「……志紀本、先輩あたり……」
最近の生徒会の怠慢を考えると、志紀本先輩ならやる可能性もないとは言えない。
副会長の機嫌をここで底上げしておくことで、作業効率の向上&風紀へ頭が上がらない関係を作る意図が……あるのでは……。
ネガティブ思考からなのか石橋を叩きすぎるきらいがある用心深さからか、いいことがあると裏に何かあるのか疑ってしまうこのやるせなさ。
「志紀本様からそのような指示は承っておりませんが……」
「で、ですよね! 失礼しました」
「呼び方……戻されたんですね」
「……え? ああー……はい」
「委員長」から、「志紀本先輩」へ。
と、いっても呼び方を矯正させられたのもつい最近のことで、半強制的だけれども。
第三者から指摘されると、気まずさというか、照れくささを感じる。園陵先輩の柔らかい笑顔が、余計にそう思わせるのかもしれない。
ぽっぽーー、という汽笛を合図に、周遊列車がゴールに到着。
降り立ったその場所には、見覚えのある姿があった。相手方もこちらに気付いたようで、ペアの子に一声をかけて一緒に近付いてくる。ゆらゆらと揺れる風船。
「……りお……ちー……」
「奇遇ですね、タツキ」
「横峰様もこちらのエリアにいらしたのですね」
片方は、数時間ぶりに会うタツキだった。先輩も俺の横でぺこりとお辞儀して、釣られたタツキもちょこっとだけ頭を下げる。
タツキの動きにあわせて、このテーマパークのマスコットの一匹である犬の立体風船が前後左右上下にふわふわと浮いていた。190オーバーの男が風船を持ってここまで様になるのなんでだ(しかも後ほどすれ違った見知らぬ生徒に渡して卒倒させていた)。
あれ待てよ、"ちー"って園陵先輩のことか。可愛さ余って可愛さ100倍……俺はそろそろ自重を覚えようかな。
「今……から、昼…?」
「ああ……もうそんな時間ですか。園陵先輩、そろそろ軽食をとりましょうか」
「ええ、お昼に致しましょう」
「……。……一緒……?」
少し考えて、多分『一緒に食べないか』と誘われていると判断。
普段より口数が少ないのは、まだペアの子と慣れていないせいだろうか。
さて、これがもし他の野郎だったなら遊園地おデートの邪魔をすんなと内心で舌打ちをかましたところだが、相手はタツキだ。
タツキと園陵先輩。
つまりは俺の癒し要員ツートップ。
俺に断る理由はまったくもってございませんね。
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