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園陵先輩も「是非に」とのことで、ここは難なくクリア。タツキと風紀の関係は良好なので、会話に詰まる心配はいらない。
さて残るは、タツキのペアの子の了承。
…………どこかで見覚えがあるなあ、とは思っていたんだけど。
「まじで? 光様に、ベガ様? と、ご一緒? いやいやいや、僕は脇役平凡だってば……!」
かくいう彼……あの日、王道と廊下でトラブっていた一年生は、先ほどから顔面蒼白という状況だった。
小声でなにかをぶつぶつ訴えている。
明るい茶色にもオレンジにも見えるやや派手めな髪色で、ところどころ元気に跳ね返っている。背丈は170を越えないくらいか。そばかすが浮いた幼さの残る顔つきの、活発そうな印象の男子生徒。
本人は平凡というが、俺に言わせれば愛嬌がある顔立ちだと思う。柴犬系。タツキと揃って犬属性っぽい。
まあ、傍観者を主張していた彼からすれば、この状況はあまり宜しくないだろう。
わんことペアになっただけでも周りからの目が痛かっただろうに、加えて風紀副委員長の園陵先輩と生徒会副会長の俺。
一般生徒が一人だけ『親衛隊持ち』に放り込まれて平気なわけがない。主に周りからの嫉妬が。
彼が余計な顰蹙を買う可能性を考慮すると、ここは遠慮した方がいい気がしてきた。王道の二の舞ではさすがに可哀想だ。
「…………だめ、?」
しかしここで元祖犬 が犬二号 を無自覚でたらしこみにかかってしまった。じっと見下ろし、かくんと首を傾げる。ド級美形による母性を擽る仕草。まさに犯罪。
あちゃー、と額を覆った。一年生の顔が茹で蛸のように真っ赤に染まっている。
「どちゃくそ可愛い……じゃ、なくて、え、うあ」
「だめ、かな……」
「アッアッア゛ッ、いやあの、駄目というか、揃うだけでスペクタクルな予感がする顔面100億点選抜に僕などの有象無象が……」
「「すぺくた……?」」
「ああー、えっと、まずはお名前を窺っても宜しいですか?」
「へあっ……! あ、あの、篠崎 です、僕。篠崎一馬 。はじ、はじめまっ、して」
園陵先輩とタツキの脳が彼・篠崎くんの腐男子理論を理解する前に、口を挟んで無理やり軌道を変える。
しかし見事にどもられてしまった。
警戒されているのか、なかなか目を合わせてくれない。
見た目からしても、口数の多さからしても気弱な印象は受けないが……やはりタツキや園陵先輩のような善良オーラが全面に出ている人間と違って、俺のようなタイプは人を警戒させたり怖がらせてしまう傾向にあるらしい。
広報委員長も、俺に対してこんな感じなんだよなあ……。篠崎くんの反応とダブる。
それにしても、タツキと篠崎くん。
偶然だろうが……まさか、「王道嫌い」のペアができるとは。
「本日はお日柄もよく……あ、違った、本日は宜しくお願いします、副…………光様、ベガ様!」
「そう畏まらなくても結構ですよ。その呼び方でなくても気にしませんし」
「わたくしも、そうして戴けると嬉しいのです」
こくこく、と頭を上下に激しく揺さぶった後、どこか暗い表情で沈黙した篠崎くんが心配になった。一年の頃は同じく一般生徒だった身からすると、今の心境は非常に理解ができる。
やっぱり困るよな。
園陵先輩とタツキが世間話を始めた隙に声を掛けようとしたのだが。
「メジャーCP支援派としては……会長×副会長と風紀委員長×副委員長を推したいところだけど、なるほど百合か。…………うわ、食える」
どうやら見間違いだったらしい。
この学園の同人事情については今は聞き流すことにしよう。
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