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 話が大方纏まる頃、わんこのお腹がきゅるきゅると空腹を訴えた。訴え方が可愛いにも程があった。  気持ちを切り替え、携帯でテーマパークのマップを開く。そこには位置情報が示され、付近にはフォークとスプーンのランチマークが点在している。 「ランチのご希望はありますか?」 「ぅぅん……、ない……」 「皆様に合わせます」 「……あ、えと、僕も、特には……」  まあこうなりますよねー、と内心でごちる。  いつも我の強い連中とばかり一緒にいるせいか、反応の落差がすごい。  二年の俺が仕切るのもちょっとな、とは思うが、ここは適材適所ということで。 「では、適当に歩きながら決めますか」  どうすっかな。  タツキは見た目通り底知れずの胃袋だから、レストランが無難だろうか。フレンチや和食のような形式ばった食事より、寿司とかハンバーグとかカレーとか、ボリューミーで親しみ深いごはんが好物なんだよな。  ちなみに園陵先輩は和食をよく食すらしい。  篠崎くんにいたっては未知数だ。好物がないわけじゃないと思うけど、このメンツで自分からは言い出せまい。  レストランだと各々が注文すればいいからそれぞれの好みの系統を考慮する必要はさほどないのだが……しかしちょうどランチタイムということで混雑している可能性が高い。園陵先輩を野郎の巣窟に自ら行かせるわけには……。  はい、俺の独断でレストランは却下。  そして、園陵先輩がちらちらとクレープの屋台を見ていたことに気付いたので、そちらにそれとなく誘導した。昼食決まり。  庶民的に言えば定番のメニューだ。お値段は庶民にまったく優しくないけども。 「……支倉様。申し訳ありません、気を遣っていただいて」 「無理をせず仰って下さいと言ったじゃありませんか」 「はい、今後気をつけます。……実は、このような食事を家の者は粗悪なものと呼んで、口にするなと厳しく言いつけられてきましたので。初めて、触りました」  これだからご令じょ……ご令息様は。とは無論顔に出さず、先輩の分まで受け取って手渡す。  俺のクレープは焦がしバナナとホイップクリームにアイス、そこにキャラメルソースやフレーク、チョコレートチップをちりばめたわりと定番の組み合わせ。  一方の園陵先輩といえば、いちごを中心に、マンゴーやソフトクリーム、ワッフルといった色鮮やかなトッピング。チョイスまで女子力……。 「落とさないよう、お気をつけて」 「はい」 「やだイケメン……!」 「……おれ、まっちゃ」 「ひらがな喋りに聞こゆる……」 「篠崎くんは、注文決まりました?」 「ひえっ?! あ、ああ、いま! いま決めます!」  うーん……。やはり俺には一段と怯えが強いというか、けっこうわかりやすく距離を置かれている気がする。  篠崎くんもクレープを購入し、食べ歩きは行儀悪いので日陰の休憩所に入り、木製の四人掛けテーブルへと着席。  食べ方が分からないからか、俺のを見様見真似で食べる先輩が可愛すぎていきつら。  園内最長のジェットコースターがはるか上空を通りすぎ、瞬く間に遠ざかっていく。  遊んで、歩いて、笑って、日影で小休止。なんか、懐かしいな。この素朴感。  遊園地は中学以来だ。ダイレクトに「楽しい」を持ってくる遊園地は大好きな遊び場だけど、そう何度も足を運んだ経験はなかった。  こうして思いを馳せるのは、ちょっとした感傷に近いのだろうか。  そんな余所事を考えながらクレープにかじりついていれば。 「……りお………ひとくち…」 「、……っふ」  鼻先が何かと触れる。  がぶ、と目の前で噛み付く、至近距離で見えたその犬歯が印象的だった。  く、食ってるときに食われた……。  本人はおいしい……、なんて満足そうに可愛いことを言ってるが、俺を含め周りにいたカップルっぽい生徒らはちょっとザワッてんぞ。  あと口元にキャラメルソース付いてる。自分で気付いて舐めた。これはあざとい。  別にクレープちょうだいって言やあ普通にあげるけど、できれば俺がくちを離してから食べて欲しかったんですが。  角度によってはあらぬ光景にうつるので。 「ひ、ヒ、ちゅーするのかと思った……わんこやっべぇぇえ」  今テーブルの下でめっちゃ膝うってたけど……腐男子ってタフだよな。  

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