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それからしばらくは、ファミリー向けアトラクションをのんびりと乗り回した。
空中ブランコやミラーハウス、二人乗りジェットコースターなどなど、こども向けといえどなかなか楽しい。
主に俺が、アトラクション全制覇のためにこのエリアを網羅しようと目標だててコースを回っているとはタツキと篠崎くんにも伝えてある。おかげさまで着々とピンバッチの回収作業も進んでいる。ほくほく。
ちなみに協力者のリウはすでにCブロックの三分の二を制覇したとの連絡が来た。仕事が早くて助かる。
「次はあの乗り物ですね。ええと……"かんらんしゃ"」
園陵先輩がパンフレットの写真と実物を見比べながら、言い慣れない名前を拙く呟く。取り出されたパンフレットは綺麗に畳まれ、再び大切そうにいそいそとバッグの中へしまわれた。
底が透けているゴンドラは、こども向けとあって男4人で乗り込むにはやや狭い。となると。
「タツキと園陵先輩、どうぞお先に楽しんで来て下さい」
「え゛」
「……支倉様たちは?」
「私は篠崎くんと乗ろうかなと。せっかく二組で動いていますし、組合わせを変えてみませんか?」
「いい、よ」
「え゛っ!?」
「支倉様がいいのなら」
さすがわんこと女神、察しがよくて助かる。
慌てふためく小型犬のような仕草で俺たちの会話を聞く篠崎くんの顔がみるみる蒼白に色を変える。
これがタツキや園陵先輩と『二人きり』だったら、まだここまで酷い反応はしなかったろう。
やはり、原因の一端は俺か。
「篠崎くん、それで構いませんか?」
「えあ、その……っ」
「それとも、気が進みませんか……?」
「いやいやいや。いやいやいやいや進みます!!!」
いつもの副会長スマイルのまま残念そうに眉を下げてみせれば、篠崎くんはぶんぶんと首を左右に振った。大変よく出来ました。
タツキと園陵先輩に先に観覧車へと乗って貰う。普通なら男二人でどうかと思うところだが、癒し×癒しなら大丈夫だろう。
すれ違いざまに「よろしくお願いします」、という視線をしっかり汲み取った。
彼らも案じているのだ。
元気そうに振る舞っているように見えて、どこか心ここにあらずな篠崎くんの様子を。
「篠崎くん、順番ですよ。行きましょう」
「は、はひっ!」
緊張の真っ直中でかちこちの篠崎くんに、順番が来たことを伝えて先に乗せる。
(彼の心境からすれば)無情にも閉じられた扉。
ゴンドラに乗り込んでからしばらくは、この二人っきりの空間にビクビクしている篠崎くんと、外の景色を眺めていた。しかし相手の挙動不審が最高潮に達したので、おもむろに話を切り出す。
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