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時刻は17時を回る。
閉園後、タツキと篠崎くんペアとは別れて、複数ある宿泊先のホテルへ向かった。
この一日で歩き疲れたのだろう、若干ペースがゆっくりの園陵先輩ときちんと歩調を合わせながら。
「お疲れ様でした、園陵先輩」
「いえ、とっても楽しかったのです……! 世間にはあのようなお乗り物が沢山あるのですね……!」
目をキラッキラと輝かせながら、はじめての遊園地の感想を語る先輩。ねえ見て、見てこれ。ぐうかわ。きゃわわ。
大人しく聞き役に徹しながら煉瓦道を歩き、恭しく出迎えるドアマンにお辞儀を返して、ようやくホテルの中へ。
ヴィクトリア様式の外観を裏切らず、クラシカルかつ華やかな内装が俺たちを迎え入れた。ホテルっつうか、宮殿って呼んだ方がしっくりくる。おとぎ話に出てくるような荘厳さで、とにかく眩しい。
高い天井や柱とか、ところどころ学園の正面玄関と造りが似てる気がする。ここの経営者が学園出身だと考えると、偶然ではなさそうだ。
ロビーにて談笑していた生徒たちは、俺たちの存在に気づくと目の色を変え、スッと頭を下げた。
「「…────」」
異様なほど静まり返ったエントランス。特に動揺を示したのはホテルマンたちだった。
お辞儀45度の姿勢で目を伏せたまま微動だにしない生徒たちの中心を、俺と園陵先輩は歩調を変えることなく突っ切る。
チェックイン(といっても、身分証明代わりの生徒手帳を提出してルームキーを受けとるだけの手続きだが)を済ませ、上層階専用のエレベーターに乗り込んだ。
扉がぴったり閉じあったことを確認して、一息。
「…………気疲れ、しました」
「ふふ、お疲れ様でした。あのような注目のされ方は、さすがに息が詰まりますね」
まったく…───猫かぶり共め。
あの慎み深い振る舞いは、つまるところ"いつもの"熱狂的歓迎のよそ行き版。
学園は、そしてそこに通う大多数の生徒たちは、外部に対してとにかく秘密主義だ。
特に徹底して隠していると感じるのは、蔓延する同性愛の実態。
同性婚やパートナーシップ法など、LGBTに対する世の中の対応は徐々に寛容になっているとはいえ、まあそのあたりは各家庭でさまざまな事情があるのだろう、言葉にしろ態度にしろ、部外者への漏洩を一切禁じられている。
今回は【王道事変】直後の新歓で何らかの不祥事が起こる可能性も念頭に置いていたのだが、今のところその手の問題もあがっていない。
つくづく、外面の良さが根づいていて、呆れを通り越して天晴れだ。
本性の擬態という意味なら、俺よりよほどお坊ちゃんたちの方が他人を騙し慣れているのでは。
「学園内より幾分かマシではありますが……やはりまだ少し、慣れません」
「こういっては何ですが、貴方様は一般家庭の身でありながら、非常に順応能力が高いお人です。背筋も歩き方もお手本のように美しかったですし、ご立派でしたよ」
せ、先輩に褒められた……。褒められたら伸びる子だからもっと褒めてつかあさい……(ただし人は選ぶ)。
まあ、立ち振舞いやらマナーやら学園の実態やらを俺に教え込んだのは他でもないあなたの上司様ですけどね?
去年のあの鬼のようなスパルタ指導は一生忘れません、ありがとうございました。
しかしもう二度とごめんです。
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