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 さっきまでどんな生意気を言ってもいつもの調子でどこか楽しそうな顔をしていた会長の表情が、一瞬で掻き消える。  馬鹿か俺は。軽はずみにも程がある。早く、話題を変えなくては。 「比べてなどいませんって。……、……そ、んなことよりも……どうでしたか? はじめてのゆうえんしせつは」 「……。おっ前、今絶対バカにしてるだろ……」 「してませんって。たのしかったですか??」  会長との距離を一歩つめ、覗き込むように上目で窺う。あまり使いたくない小技だが、意識をこちらに向けるためだ。背に腹は替えられない。  整えられた会長の柳眉が少しだけ中央に寄り、「……悪くなかった」と呟く。表情の変化が生まれたことで、内心胸を撫で下ろした。  あぶねえ……良かった、調子戻って。  無表情よりは断然、不機嫌を露にしてくれた方が、この人の場合ずっとマシなのだ。  一方、特に会長の機微を気にも留めてなさそうな二葉先輩が、やれやれとお手上げのポーズを取る。 「神宮の愛想の無さには呆れるのう。案ずるな副会長殿、そやつは照れておるだけよ。これはどんな乗り物だと逐一我に問うし、迷い子となるし、同じ通路をぐーるぐる回るし」 「うちの会長が面倒をおかけしたようで本当にすみません……」 「母親か。つうか二葉、迷ったのお前だろ」 「まあ、特に問題は皆無ぞ? むしろ我こそ大いにはしゃいでしまって。"お主の"会長に手間を取らせてすまなかったな」  いや別に"俺の"会長じゃねえけど? 願い下げだけど? このへんは言葉の綾だろう。スルー検定準二級。  ……って、あ、いけない。今何時。  右手首の腕時計に目を落とすと、立ち話をはじめてそろそろ5分といったところ。つまり園陵先輩を意図的に一人で部屋に押し込めて5分近く。  さすがに話し込み過ぎた。  ということではやく部屋に入りたい。 「そういえばどこかに向かわれる途中だったのでしょう? 引き止めてしまって申し訳ありません、二葉先輩」 「構わんよ」 「俺に謝罪はねえのか」 「はいはいすみませんすみません……、おっと」  雑に謝ればでこぴんが飛んできたので辛うじて神回避。やだやだ、これだからすーぐ手が出るオトコは。 「相変わらず反射神経だけはいいな」 「それで褒めてるつもりですか?」 「光栄に思えよ」 「聞き流します」 「その態度のデカさも誇っていいぞ」 「聞き流します」 「はあこの可愛げのなさ」 「いやいや神宮。副会長殿はあれだ、世に言うつんでれなのだ。好きにさせたまえ」 「つん……?」 「それは、絶対に、ちがいます」  いつもの調子でどうでもいい舌戦を繰り広げてしまったけれど、あれおかしい、話が途切れない。「引き留めてしまって申し訳ありません、それではまた」みたいな流れで切り上げようと思ってたのに。  いちいち俺を挑発して脱線させるなバ会長。  そして俺もそこに乗るな馬鹿野郎。しかもツンデレじゃねええええ。  

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