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 ひたすらどうでもいい舌戦を繰り広げていれば、ようやく軌道修正が入った。 「ほれほれ、そのあたりで両者手打ちにせぬか。副会長殿もそろそろ部屋に入って身体を休めたかろうし、何よりチトセを待たせておるだろう。ささ、我々も参るぞ神宮」 「……ああ、行くか」 「お気をつけくださ……そういえば、何処へ向かうおつもりなんです?」  俺の後方へそのまま進めばエレベーターがある。この時間帯に再び外に出はしないだろう。ならばどこへ?  ちょっとした好奇心だった。行き先を聞けばすぐ別れるつもりだった。  にんまり、と大人びた容姿とは裏腹に幼子のような笑顔を浮かべた二葉先輩が懐から取り出したものは、ひよこのおもちゃ。……まさか。 「二階の温泉に繰り出そうと思ってな。ぴよ」 「ハウス!」 「わあん」  わあん、じゃねえよこの電波ニンゲン。つうか俺もハウスとか言ってる場合じゃねえ。  温泉、ついでにナイトプールもだめだ。何せ身体を隠せない。どれだけ猫かぶりに長けた生徒でも、下の息子はきっと正直だから一発でアウト。逆上せる生徒続出で企画運営の立場からしてもアウト。  止められる問題は未然に防がねば。  俺の横をすり抜けて行こうとするバ会長の前に立ち塞がり待ったをかける。 「あ? どうした」 「客室のバスルームで我慢していただけませんか」 「泊まりといえばオンセンなんだろ?」 「……二葉先輩、この人庶民の常識をスポンジみたいに次から次へと吸収するタイプみたいなので、あんまり吹き込まないでいただけますか!」 「おい押すな、退けコラ」 「こちらも押す気はありませんでしたよどうして止まらないんですか」  立ち塞がりはしたが、俺は前方に直立して行くなと説得しようとしただけだ。  だけどこのクソ会長、俺の存在を歯牙にもかけず向かってきて、ずるずる後退させられているどころかもはや寄り添っているように見える始末。  だから必死で手を突っ張っている。  くっそまったく動かないこんちくしょおおおお。普通誰かが目の前にいたら止まるだろーが! 「はっはーん。副会長殿は愛しの会長殿の身体が他人の目に触れることを好ましく思わないのだな?」 「「……はああ?」」 「何せ先日連れ立って保健室へ赴いておったろう?」 「見てたのか……」 「見ていらしたのですか……」 「おや、ついに交わったのかと邪推したのだが……その様子じゃ違うたか」 「天と地が変わろうと」 「俺はそれでも良かったがな……、ッてェな!」  足を軽く蹴っておいた。もちろん軽くだ。  むやみやたらに蹴りつけて会長の制服やら靴が汚れたら到底弁償できないし、要らぬ条件をつけられそうなので。  

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