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隙を見て会長と距離を確保する。
非常に不愉快な誤解ではあるが、会長の身体を他人に見られるのは(周りの被害とこちらの心労を考えると)避けたいので特に否定せずにいれば、温泉は諦める方向に話が進んだ。
ひとまず安心か。じゃなきゃ文字通り身体張って止めた意味がない。
仕方ねえな、と言いながら自分らの客室へ方向転換した二人を見送る。
しかし何故か、二葉先輩だけが何かを思い出したようにこちらに戻ってきた。手招きされたので俺からも数歩近付く。なんだろ。
「ところで副会長殿。先日以来、繋 から被害を被ってはおらぬか」
「保健室には例えどんな重傷を負おうと決して足を踏み入れない予定ですので、永劫心配ございません」
「それならよい。が、万が一のために言 うておこう」
いやだから絶対行かねえよ、と内心鋭く突っ込みながらも、有益な情報を無償で貰えるなら貰っておくスタンスなので黙って先を促す。
「繋はキレイなモノを大層好むぞ。気をつけよ」
「……二葉先輩って美形ですよね」
「よせやい照れる。正確には、キレイとは容姿のことに留まらない。初心や純心、無垢、有り体に言えば『ハジメテ』の人間、己が抱かれることなど欠片も考えないプライドや潔癖さが大好物でな」
あー……タチばかり狙ってんのはそういう理由、なのか?
純心とか無垢とかそんな単語使うから混乱したけど、要は「フフン俺はぜってえ掘られねえぜ(どやあ」と思ってるヤツほど汚したくなると? は、はた迷惑な。
「副会長殿がそのような世界を経験してみたいと思うたら、繋ほど申し分ない相手もおらぬがな」
「そんな世界はお断りです」
「だろうな。まあ、可能性の話よ。………しかし、」
にやり。
その唇はチェシャ猫を彷彿とさせた。
「───近しくもない他人 なんぞにお前を喰わせてやるくらいならば、我が真っ先に喰ろうてやろう」
………。
「冗談がお上手で」
「6割程度は本気でござる」
「あなたの親衛隊の方々に仰ってあげた方がよほど良い反応が返ってくるのでは?」
「口説いて素直に喜ぶ輩じゃ詰まらん。その点、外面は澄まし顔でも内面では死ぬほど嫌がっておるお主の挙動を見ておる方が、よきかな。娯楽になり得る」
「……我儘な人ですね」
「褒め言葉と取ろう」
一瞬で冷めきったであろう自分の面構えを努めて平常に戻して、ミステリアスな容貌には似合わないウインクを俺に寄越す二葉先輩を、はよ客室に戻れと催促する。
そして俺もやっと、園陵先輩が待つ客室に入ることができた。ああ長かった。
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