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ルームサービスで運ばれてきた懐石料理に舌鼓を打つ間も園陵先輩から繰り出される『バ会長キャーカッコイイー』な怪談を延々聞かされるという拷問(飯の味がわからなかった)を受けていた俺、無事客室から脱出。
何故ならリウからコーヒー牛乳の画像が送られてきまして。しかも温泉には定番の瓶のやつを。
これはぜひ記念にと思ってしまうのが旅行心理というもの。
自販機は温泉の近くにある(こんな華美な内装にあのタイプの自販機って正直浮いてる気もするけども)らしいので、がま口財布を片手にいざ繰り出さん。
温泉のあとは牛乳を飲むという習わし(?)に興味津々だった園陵先輩の分まで買う約束をし、先輩が客室のバスルームを使ってる間に買い物を済ませる算段だった、のだけれど。
「………リオちゃん?」
おかしいな、購入したらすぐに部屋へ帰ろうとしたものの、見事に遭遇フラグを踏んだらしい。
そういえば園内ではまだ見てなかったなと、声の主に確信を持って顔を上げた矢先。
「ま、……つり……サン」
マツリおまえ……お前ほんっとにさあ……。
「コンバンハ……」
「こんばんは。同じホテルだったんだね……?」
浴衣姿のマツリだ。
浴衣姿の、マツリだ。
何故強調したかというとつまりこいつ温泉に行ったわけか! せっかく会長と二葉先輩を食い止めたというのに……!
薄灰の浴衣に濃紺色の帯と羽織はそれぞれの客室に用意されていたもの。
首に無造作にかけられたタオルからのぞく鎖骨、緩めに結い上げた後ろ髪、前髪のヘアピン等々、親衛隊をぬっ殺しにかかってる。つーか意外と和装似合うな。
服装やら髪型やらの影響でいつもと雰囲気が違うからか、笑い方や話し方もどことなく普段と違うように感じる。
あけすけに言うとなんかやらしい。
やらかしてないよな……さすがのこいつも旅先の大浴場で人に見られながらコトに及んだりは……。
果たして風呂場で遭遇した生徒は大丈夫だろうか。
俺が見てもイケメてると思うくらいだ、いくら外部の土地とはいえ、無駄にアクションが大きいここの生徒が見てしまったら、果たして彼らの自制心はどこまで持つのだろうか。
その辺りの影響力はちゃんと自覚してますのん??
「マツリ、あなた……悪さはしてないですよね?」
「心外だなぁ、珍しくイイコにしてるよ?」
「ですが、温泉に……」
「んー……? ……ああ、大丈夫だよ。オレらが使ったトコは大浴場じゃなくて、もっとこじんまりとしてたし。生徒会特権ってことで一般生徒立入禁止にして貰ったから」
どんな特権だよ。勝手なルールを作りやがって。
職権濫用もいいとこだが、風呂場で生徒が発狂果ては乱痴気騒ぎ、なんて目もあてられない結果になるよりは貸し切ってくれた方がずっとマシだけども。
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