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 王道を回避したい気持ちが先立って、反射的に一直線上の通路から外れた休憩スペースにさっと身を隠した。  あからさまに「王道を避けている」と思われかねない行動をとってしまったと、遅れて気づいて焦ったものの、マツリや玖珂くんは特にそこに触れることなく俺の後に続いた。  ひとまず、不審には思われなかったようだ。  ひょこりと壁から顔を覗かせて発信源の方向を見てみると……T字路のあたりであの不自然に浮いたもさもさ頭の後ろ姿を捉える。  危なかった、あのまま誰かがやつを引き留めていなければ、ここにいる俺たちが見つかるところだった。 「───頼む、佐久間。付き合ってくれ!」  件の王道を絶賛引き留めているそのバリトンボイスにも、聞き馴染みがあった。同時に頭を抱えた。  そこそこ距離があるにも関わらず、王道に勝るとも劣らないあの声のボリューム。あれが地の声というのだからほんと内緒ごとには向かない。  まして、ひっそりとした告白現場になるわけが。 「あの声、体育委員長じゃん。こんな往来でよくやるねえ」 「ほんとうに……あのひとはTPOというものを……」  "最近の王道周辺で話題をさらっている『役職持ち』の一角、体育委員長兼柔道部主将・佐々部拓海(ささべ-たくみ)さんが、生徒やホテル従業員がいつ通るかもわからない往来で、王道に愛の告白を行っている"───。  状況を飲み込むほどこめかみのあたりがズキズキしてくる。  今まさに王道へ追い縋っているのだろう、暗い赤髪を逆立てた大柄な男性の顔を脳裏に浮かべ、同時に観覧車で語った篠崎くんの打ち明け話も思い出す。  親衛対象がここまで堂々と一直線に王道を追いかけていては、篠崎くんをはじめ親衛隊も口を閉ざすほかないのだろう。 「本当なんなんだお前、散々オレに付きまといやがって! キッパリ断ってんだからそろそろ諦めろよ!」 「一回でいいんだ、どうかチャンスをくれ……!」 「それをずっっと断ってんだろーーが! いい加減、しつこいんだよ! オレの言うことも少しは聞いてくれよ!」  おいおーい、王道さんよ。  いくらなんでも断り方はもう少し選ぼうぜ。  いくら脳筋(悪口)の単細胞(悪口)が相手でも、真っ正面から告白してる相手に対してそれはねえわ。  告白は受け入れるときよりも断るときの方がずっと誠意が必要だろう。 「どうしてもダメか?! なんなら期間を設けてもいいんだ! 絶対、その気にさせてやるから!」 「オレは忙しいんだ!」 「少しの間でいい、俺に時間をくれ……!」 「その台詞、何回言ったと思ってんだ?! なんでわかんねえんだよ! 本当になんっなんだよ!!」 「これで172回目だな! お前に惚れ込んだ、だから諦めない! そろそろ付き合ってくれ!」 「…………うっっ……ぜええええ!!」  ひゃくなな……え?  あっ、いや……。………前言撤回。さすがにこれは王道に同情した。  172回の告白もそうだが、回数をきっちり覚えてんのがまた……失礼ながらうざがられても仕方ないというか。佐々部さんに会うたびに四六時中この状態では、さすがの王道も根を上げるだろう。  「盛大にコクって盛大にフラれた」ってこういうことか。こんな殴り合いみたいな告白劇を172回もしてりゃそら親衛隊も応援したくもなるわ。  俺はもう1回聞いたらじゅうぶん。  早く帰らせてくれ。頼むから帰らせてくれ。お願いだから通路を塞がないでくれほーら見ろ一般生徒が寄って来たじゃねーか!  

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