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複数の足音がT字路の向こうから聴こえてきて、磨きあげられた床に人影が映り込む。近所迷惑を考えない二人に呼び寄せられ、ギャラリーが集まってきたのだ。
これでもう穏便に収束することは叶わない。
「つまり1日30回以上似たようなやり取り繰り返してんだ、あの二人。体育委員長すごいねー」
「アレをすごいと褒めるのもいかがなものかと……付き纏われる側の王道 がさすがに不憫では……??」
王道のコトを気に入っているわりに、マツリの口振りは完全に他人事だった。
王道が100パーセントフルスイングで佐々部さんを拒絶しているのがわかるから危機感が沸かないのも当然なのだが、気になるコが他の男に今まさに言い寄られている現場を見せられておきながらこの対岸の火事っぷり。
まあマツリは性格的に、嫉妬の業火に燃えるような、恋に身を焦がすタイプでもないんだろうけど……。
ちなみに現場を遠目から窺う俺とマツリのひそひそ話には参加していない玖珂くんはというと、少し離れたマッサージマスィーンの上で極楽浄土に旅立っていた。ザ・フリーダム。
「もういい、今日は友達の部屋に泊めてもらう! もうついて来るなよな」
「それはダメだ、他のペアの親睦を邪魔してはいけない。俺たちも俺たちの部屋に帰るぞ!」
「……頼むからしばらく一人にしてくれ!」
……おや?
同じ部屋ってことは、今回の新歓は佐々部さんと王道がペア?
それはつまり、志紀本先輩が裏から手を回してまで、あの二人を今日一日一緒に行動させたかったということで。
志紀本先輩が風紀委員長として言うことやることは基本的に最適解だと思っているから、この組み合わせにしたのも何らかの意図があるんだと思う。
だが……"副会長個人"の都合からすると、この状況は本来、面白くあってはいけない。佐々部さんのストーカー(?)まがいの求愛行動によって迷惑を被る佐久間ルイを、護ってやらねばと、そう思うのが好意を向けている人間としての模範回答。
何より、ギャラリーがじわじわと集まってきている。集まれば集まるほど何を起こすかわからない。
止めるべきだ。
しかし、どう止めるべきか───。
「……いろいろ考えてるとこ悪いけど。リオちゃん、あれはね。体育委員長のあの告白は───あれでも、柔道部への勧誘のつもりなんだよ」
「へ……?」
不意を突かれたせいで、呆けた返事が開きっぱなしの口から漏れた。
膝頭に頬杖を付いてつまらなそうに王道達を傍観しているマツリの横顔を、思わずじっと見つめる。え? まじで?
「それ、本当ですか……?」
「うん。ルイちゃんが不良生徒を蹴散らしてるとこを、体育委員長が目撃したのがきっかけ。喧嘩の腕に惚れ込んだんだって。オレは偶然、その最初の一回目の告白現場擬きに居合わせたの」
「だからその落ち着きぶり……」
「まあ、ね。まさか一週間経ってもここまで粘着質な勧誘してるとは予想してなかったけど」
言葉足らずにも程があると思う。
親衛隊からも応援する人間が出るということは、1回目以降の171回はこういった誤解を招く口論ばかりをぶつけ合ってきたということで。
それはそれは……本当に、
「……まぎらわしい」
「ねー」
脳筋は言葉を省くから誤解を生みやすいんだよねーと笑うマツリのとんでもねえ毒舌をスルーしてしまったくらいには、驚きと気疲れに思考が支配されていた。
何がどうなれば、ただの部活勧誘がドタバタ告白劇場に取って代わるんだろう。フッツーに「部活に入ってくれ」「入らない」でいいじゃねえか。茶番なら余所でやってくれ頼むから。
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