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「それがいけないことだと申しているわけではないのです。人様の考え方に口を挟めるほど、わたくしはたいそうな人間では御座いません。しかし、あんまりお上手になり過ぎますと……」  そんな中で世話になったのが、当時風紀副委員長だった志紀本先輩と風紀委員だった園陵先輩。  学園の常識や自己防衛手段を徹底的に教え込まれたし、ことあるごとに目をかけてくれていた。彼らのおかげで、俺はこうして学園に順応することができた。  この先輩達には本当に、世話になった。 「志紀本様が、心配してしまわれますよ……?」  あの人が、心配?  それは……ありえない、な。  去年と立場は同じだ。  学園の「火種」になりかねない一生徒(おれ)を、見張って管理しているだけのこと。 「……志紀本先輩に、何か吹き込まれでもしました?」 「いえ、いえ、違うのです。わたくしの、勝手なお節介で御座います。出過ぎた真似をお許し下さい」  俺が大人びたと、先輩は言う。  去年の暮れ、生徒会副会長になって、つまりはこの人達のように責任あるポジションに就いて以降、俺がそれまでと態度を変えて彼らに接しはじめた、その変化を指して。  俺は「あの日」以来、他人行儀とはいかずとも、しかし副会長という立場を重んじるような接し方を心がけてきた。  彼らからすれば、それまで懇意にしていた後輩が生徒会入りした途端急にてのひらを返したように「副会長としての顔」を全面に押し出してきて、あまりいい気はしなかっただろうに。 「ついでに言わせていただきますと……今日は、とても嬉しかったのです。貴方がまた去年のように、志紀本様のことを、役職名ではなくお名前で呼んで下さって」 「……半強制的に、でしたけどね」 「その手法が良いと、志紀本様が判断されたのでしょう。貴方を言いくるめるのが愉しくて仕様がないのだと思います」 「……ほんと悪趣味」 「ふふふ、志紀本様を悪趣味だなんて仰る方、支倉様くらいしかいませんね」 「今のは……言葉の綾というか……」 「勿論、告げ口は致しません。だから、わたくしが今話したことも、どうか志紀本様にはご内密に」  未だにあの時の俺を彼らがどう思ったのか聞き出せないのは、俺自身の弱さだ。  後輩の自分勝手な変化を、無言でゆるしてくれている園陵先輩の変わらぬ優しさに、こうして甘えきったまま。  優しい人。  いつも、人を想って心を配れる温かい人。 「……ありがとう、ございます。心配、して下さって」 「……」  園陵先輩の肩が少しだけ動いた。  じきにゆっくりと身体の力が抜けていく。 「当然です。わたくしは貴方様の、先輩ですから」  どこか照れくさそうな、しかしちょっぴり誇らしそうな弾む声に「お休みなさい」と促され、ゆっくりと深い眠りに落ちる。  閉めきった窓の向こうでは、色とりどりの電飾たちが静かに夜を彩っていた。 *

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