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歓迎祭二日目 1

*  新入生歓迎祭2日目。それも残るはあと数時間。  俺は今、大変な危機に瀕している。下手するとここ最近で一番危険な案件かもしれない。  王道関係のイベントや不祥事や問題とはわけが違う、もっとシンプルで、もっとダイレクトに、俺に心的ダメージを与える事象だ。  ぎゅう、と無言で紘野の腕を握りしめる。 「なんだよ。離せ」 「いや、………あの、その」  15時を過ぎてもまだまだ強い日差しが鬱陶しいとばかりに気怠そうな顔(無表情)で佇む美丈夫へ、自分にできる最大限の低姿勢を。 「……折り入って、お願いがあります」  快適な目覚めから始まった今朝の俺では、数時間後に陥るこの状況を予想だにしていなかっただろう。  朝食はホテルの部屋で英国式ブレックファストを食し、優雅に紅茶を飲んで、再び園内に入ってからは休憩を挟みながら遊園地を満喫していた俺と園陵先輩。  テンションは最高潮だが、あいにく絶叫系でうぇぇええいなんて叫ぶタイプでもないし、写真部の不意打ちに気をつけるくらいで特に問題もなくエリア制覇を達することができた。  たいしたハプニングもなく時刻は閉園二時間前となり、混雑する前にお土産でもチェックしておこうかと、パンフレットを開いた時だった。  ピンバッチの一覧表を見たときだ。  先輩がふいに呟いた言葉に、全俺が震えた。 「……あ、かわいい」  あんたの方がかわいい、なんていう彼氏ヅラ思考はすぐに吹き飛んだ。  ちょちょ、待って。何? 何が?  軽率に頭に三角のアレつけてる白い浮遊物の何が可愛いって? うらめしやしか喋らない光化学スモッグの何処が可愛いってんですか? 「っあ、いえ。何でも御座いません。どうかお気になさらないで下さいませ」 「……」  わかってる、園陵先輩に他意はない。  ただ偶然目についた半透明の喋る蜃気楼が可愛い、という素直な感想を言っただけだ。そのスタイリッシュ罰当たりなピンバッチが一体どこの恨めしい屋敷をモチーフにしているものかなんて気にしていない。  でも、自分の発言を我儘だと省みる様子や、それを表に出さないよう綺麗に取り繕う姿を見てしまうと……もう、さぁ……。  そんな顔で遠慮されたら、男としては行くしかないじゃないっすか!  

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