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先輩をお土産販売店へ送り届けてからの俺の行動は早かった。
ちなみに、昨日行動を共にしたタツキたちに連絡して園陵先輩と合流してもらったので、気軽に別行動をとっても先輩が不敬な輩に絡まれる心配はいらない。
『紘野さん、いまいずこ』。
奇跡的に繋がった電話で開口一番そう問うと、電波の向こうからアトラクションのミュージックが聴こえてきた。これは近い。
そこを動くなよ、と念押しして俺は小走りで急行した。
木陰のベンチに深く腰掛けて缶コーヒーに口をつけ、頬杖をつく、ともすればそんなありふれた一連の動作がコーヒーのCMにでも起用されそうな、とてつもなく怠惰な仕草が様になる男を発見。
遠巻きに見惚れるチワワに構わず近づき、勢いよくベンチに両手を突いて俺はそいつに迫った。
「あの赤髪ハゲは?」
「あいつそうだったのか」
「居ないなら居ないうちにちょっと来て! 至急! エマージェンシー!」
「は、」
本当はハゲてないと思うけど、誤解をとく暇はなかった。そんな余裕なかったんだ。だからわざとじゃないよほんとに。ほんとに。
有無を言わせず紘野の手首を掴み、強引に引っ張る。
横暴だと自覚しつつも、抵抗すればすぐに抜けられるはずの紘野が大人しく手を引かれるあたり、拒否はされてないんだろうと勝手に自己解釈。
多分抵抗するのが面倒なだけだろうけど。
どこにいるかは知らないが、あの赤髪野郎には会いたくない。あのセンパイのことだから俺が紘野を拉致ったと知れば嫌がらせに迷子の放送を流しそうだ。
ひっそりと色めきたつチワワに見守られながら、急いでその場を離れる。
ここまでが、回想。
紘野の前に無言でパンフレットを差し出して問題のアトラクションを指で示す。直に触れたら呪われそうだから数センチ離したところから。
それを見た紘野の返答は想像にたやすい。
「断る」
「即答はひどくないッスか……」
「一人で行くか連れといけ」
「一人で行けないから頼んでいるんですけど。園陵先輩も見た目からしてニガテそうだし……」
「ならどうして急に」
「……先輩がそこのピンバッチ、欲しそうだったから……」
「格好つけ」
「仰るとおりで……」
もちろん喜ぶ顔を見たいという下心もあるけれど、絶叫系のアトラクションでふりまわした詫びもかねている。
ただ、それにまったく関係のない紘野を付き合わせる罪悪感くらいは俺にだってあります。
だがピンバッチを買う権利を得るのは、そのアトラクションを通過した客のみ。途中リタイアは認められない。
俺にはひとりでそこに入れない明確な理由が、ある。
目の前の無表情がつらい。
睨むでも呆れてるでもないのにこの威圧。
しかもおっそろしいほど整った顔だから余計怖い。怖いよ紘野さん。
なんでもいいから表に感情を出してくれたなら説得できそうな言葉を選べるんだが、こやつは表情筋死んでっからなあ……。イチかバチか。
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