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「頼む。代わりに今度ごはん作るから」 「……」  お? ……おお? 考えてる!  こうかはばつぐんだ! とまでは行かなくとも、ちょっと迷うくらいには興味を引けたらしい。  去年ルームメイトだった間に、紘野の味の好みはだいたい掴んだ。意外にも庶民派な味を気に入ってくれたみたいで。  俺が生徒会専用の寮に移ってからの食生活がどうなったかは知らないが、どうせまためんどくさくて食ってないか、たまにケータリングを頼む日々を送ってそうだ。  ほっとくと何も食わねえからなあこいつ。食への興味や頓着がなさすぎ。  この反応からすると、もしかして俺の肉じゃがが恋しくなってる頃なのかもしれない。  と、期待をしかけたけれど、相手は紘野。一筋縄で行くわけもない。 「……いや、断る。"コッチの方面"でお前の煩わしさはよく知っている」 「一生のお願い」 「お前人生何周目だ」 「ご、5周くらい転生してるのかも……」  まあ、そりゃあよく知ってるだろうよ。  俺のニガテ分野に関しては去年相当な迷惑かけたし。  俺が風呂を使ってる間はせめて部屋にいてくれとか、昼に寝過ぎて夜眠れなくなったから一緒に雑魚寝して欲しいとか、俺が寝付くまで眠らないで下さいとか、……い、今思うとヒッドイ頼み事ばっかしてたが! すでに一生に一度どころか何十回以上お願いしてきた気もするけども、そこをなんとか……!  話にならないとばかりに紘野が俺から目を逸らして踵を返してしまったんだけどちょっと待て! ちょっと待って!! 「ひ、ひろの……っ、」  思いがけず弱々しい声で追い縋ってしまった。なんだ今の声。自分に鳥肌たったわ。  演技も計算もまったく含まれないそのダッセェ声を聞いた紘野がぴたりと足を止め、ほんの僅かに眉根を寄せた顔で俺を見下ろした。 「おまえ、俺がコワイのだめだってよく知ってんじゃねーか……」 「………」  たすけて、ください。  へろへろな震え声を聴き、縋るように強く握りしめる俺の手を見た紘野は、ハア、と観念したようにちいさな溜息を零した。  

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