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 例えばそれは、保健室の前で。 「ばっか、ここ絶対部屋の中にエグいバケモンいるって! さっさと進めってば!」 「……おい、今、お前の後ろ」 「えっ? えっえっちょっ、進めって言ってんのになんで止まる!?」  例えばそれは、女子トイレの前で。 「耳鳴り」 「やめて。その冗談やめて笑えない!」 「アレ、お前に話しかけてねえか。行ってやれよ」 「あーあ聞っこえねぇなぁあああ」  例えばそれは、体育倉庫の前で。 「何の音。これ何の音!!」 「見ればわかる。開けるぞ」 「あっ開けんの……!?」 「脱出の鍵がここにあるって、さっきヒントにあっただろ」 「あのヒント解読してたのお前……あっ、じゃあ俺は扉の前で待っ、あッ」 「離れるなと、言った」 「~~~~ッッびっびっびっくりするほどユートp」  屋敷に入って早20分。  そろそろ……そろそろ出口が見えてくれてもいいと思うんだ……。 「もうやだ、頭も喉もいたい……」  これまで通ったルートより少し明るい階段までようやく到着した頃には、俺は心身共にぐったりだった。  口コミ情報で脱出までのルートは予習済みだから、あとは階段を昇って、教室がある廊下を抜けた直後、そこから出てきたオバケ役スタッフの集団に追いかけられて逃げきればゴールだ。  問題は俺の脚力の限界。どこもかしこもへろへろである。 「こっちは肩がいてえ」  それは自業自得でござる。  意地悪体質紘野さんが不意に止まったり振り向いたりするたびに俺はごんごん額を紘野の肩甲骨にぶつけたし、その度にビビらされるはめになった。おかげさまで頭痛がする。  手はいまだ引かれつつ(緊張のあまり緩められない)、もう片方の手で自分のおでこをさする。 「お前、そんなに本性丸出しでいいのか」 「けほっ、今さらかよ……、ンン゛、そもそも、誰のせいで俺がここまで声を枯らすはめになっているのかと……」  じと、とした目を背中に向けていれば伝わったのか、ちょうど踊り場のところで紘野は身体半分ほどこちらを振り向く。  手は繋がったままなので、つられた俺も立ち止まる。  あーあー、こんなときばっかり、愉しそーなツラしやがって。サドめ。 「俺のせい」  わかってんじゃねえか、この野郎。  

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