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 腹が立ったのでフイッと顔を逸らせば、こっちを向いた紘野は繋いだ手を持ち上げ、人差し指だけを離して人の眉間をぐいーと押してくる。  地味に痛い。うざい。  こんなときばっか構ってきやがって。天の邪鬼か。 「まあ、心配は無用だ。俺らから後は誰もアトラクションに入らないよう受付のお姉さんと交渉したから、少なくとも生徒に今の俺の状態がバレることはない」 「性悪。呪われんぞ」 「ごめんなさい」 「ん。さっき後ろにいたヤツは本物じゃなくて普通の人間だった」 「まじ? なんだよかっ……だましたなお前……」 「その前は本物」 「えっ」 「うそ」  遊ばれてる……。  イニシアチブを奪われるのは、たとえ現在ニガテ分野で弱体化しているとはいえやっぱり悔しい。紘野相手に主導権握れたためしもないけども。 「そもそも、お前何でそんなに怖いわけ」 「怖がりに理由を求めるな。怖ぇもんは総じて怖ぇわ」 「きっかけとかあるんじゃねえの」 「……」  きっかけはハッキリしている。  俺は昔、一度だけ『視て』しまったことがある。  それまで子供向けお化け屋敷でぴーぴー泣く同年代たちを見てくだらないと鼻で笑うようなスカした子供だったのに、その日を境に俺は完全に苦手になってしまったのだ。  不意討ちだったのがまずかった。心の準備さえしていれば、ここまで深く刻みつけられていなかったはずなのに。  気のせい気のせいと言い聞かせて誰にも言えないまま早10年心に秘めたことなので、今さら認めたくないのである。 「きっかけ、は……、まあその、四分の一くらいはリウのせいでも……あるんだが……その、」 「ん?」 「昔から不意打ちに弱くて、それで……」 「……ふぅん」  ちょっと興味を示したように「ん?」と首を傾げたこいつの反応(ただし無表情)がものすごく珍しかったので、ついくちを滑らせてしまった。  無表情がデフォな紘野の、漆黒の目が企むようにすっと細くなったのをわたしゃ見逃しませんでしたよ、ええ。 「……忘れろ」 「わかった。忘れた」 「ダウト」 「おら。まだ出口は先だぞ」 「あっ、ちょ、待て心の準備が。行くなよ。まだ行くなよ。俺のタイミングで行くんだからちょっと、あの、待って、」 「振りか」 「ちがっ、違うから待て引っ張んな! 離せっ」 「………。お前さ」  ちらりとこちらを向いた流し目に、ぴたりと抵抗を止めてしまう。 「俺に、一生のオネガイとやらでなんて言った」 「-ッ、、く……ぅ……」  その訊き方はずるい。ずるいぞ! 「……、……置い、ていくな」 「仰せのままに」  出口が来い。  

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