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生還!!!!
疲労感を抱えながらも、無事に元の世界へ帰還を果たすことに成功した俺おめでとう。ありがとう。
不可抗力にも目頭が熱くなる。
世界ってこんなに綺麗だったっけ……?
「いって!」
「こんなくだらないことで泣くんじゃねえぞ」
「泣いてない泣いてない」
泣きべそ寸前ではあるが。
心なしか入る頃よりもスッキリとした表情で俺の頭を後ろからはたいた紘野くん。
彼にはいろいろ恨みがありますとも。置いていかれはしなかったけど、あの後もこいつ相当俺の反応で遊んでくれやがった。
追いかけられているのにゆっくりゆっくり歩きやがって、オバケにまわりを囲まれながらゴールまでの数十メートルを歩く時間は百鬼夜行の気分だった。
しかもはちゃめちゃに怨念吐き散らかしてる相手(♀)を紘野がじっと見つめたせいで、特殊メイクで爛れた顔を急に隠して恥じらい出したあのスタッフはなんだ。なんなんだこいつは。
でも、こいつが居なきゃ入ることもできなかったし、ここは素直にお礼を……。
「付き合わせて悪かったな……」
言えるほど素直な性格してないので、謝罪に留めておく。
しかも顔まで逸らしてる。なんて誠意のない謝罪なんだか、と自己嫌悪しながらも、ちらりと目線を返したら。
紘野の表情が、和らいだ。
気が、した。
「……意外と、楽しめたな」
「はあ? おどかしても無反応だったやつが何をぬけぬけと。あれじゃ一生懸命お前にメンチ切ってたスタッフ一同(♂)が可哀相だろうが」
「屋敷じゃねえよ」
「屋敷じゃねえの?」
屋敷のことじゃなかったら、じゃあ一体何が楽しかったんだ、と問えば。
そういえばうっかり買い忘れていた目的のピンバッチをスッと差し出されて、長い人差し指だけがこちらに差し向けられた。
その、浮かべられた表情は。
「お前のせい」
低く、静かな声で言い終えた瞬間に、ころり。てのひらに落ちてきたふたつのピンバッチ。
それらを受け止める感覚だけを頭の隅で理解して、俺はただ呆然と紘野を見上げることしかできなかった。
閉園まで残り45分。じゃあな、とマイペースな歩調で去っていくその背を見送る。
「……それを言うなら"お前のせい"じゃなくて、"お前のおかげ"の間違い……だろ」
というツッコミは、結局言えずじまいだった。何せ、ひさしぶりに見た。
思わず固まってしまうのも仕方がない。
今、あいつ、少しだけ。サドっ気あふれるものじゃなくて、純粋に。
「………笑っ、た……」
遠ざかる広い背中を見て苦笑する。
俺の醜態が面白かったってのは微妙だが、まあ。
───楽しんでくれたようで、何より。
ピンバッチを握るてのひらは偶然にも、屋敷の中で一度も離れずに繋がれていた、ぬくもりが残る左手だった。
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