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「あなたが今後どうするかはあなた次第ですが、あなたが無理に自分の感情を曲げる必要はないと私は思います」
「……へ?」
「あなたは、ルイの存在を理不尽だと仰っていました。そして、佐々部さんに憧れているとも。それなら、そう思ったままでいいのではないでしょうか」
「いい……んでしょうか?」
「要は、一番優先すべきなのは、あなた自身の気持ちです」
言っていることは簡単だ。
周りや王道なんぞ気にせず自分が見たままの相手を好きなように思っていればいいんじゃね、と。
『周りの親衛隊仲間が佐々部さんと王道を応援しているから、自分も応援しなくてはならない』。『佐々部さんが片想いしている王道を、悪く言えない』。『王道に恋をする佐々部さんのことを、手放しに慕えない』。
多分、いろんな葛藤があるんだと思う。
それを自分のなかに押し込んでいたんだと思う。
佐々部さんのような正義感溢れるまっすぐな人間や、王道のような謎生態には決して打ち明けられないような、篠崎くん自身が抱える迷いや本音。
俺はその在り方を肯定する。
自他ともに認める腹黒副会長なのだ。葛藤、ジレンマ、清濁合わせ持ったままでいい。人間、そんなに単純じゃない。
俺が言えるのはここまで。
あとは本人が思うまま好きにやるだろう。
「はい……、っはい……! 僕は王道で萌えてますけど、佐久間はキライです!」
「………そ、そうですか」
目が醒めたようにキラキラとひとみを輝かせた篠崎くんは、ここが食堂と忘れているのか、ズバッとそう言い放った。
これほどはっきりすっぱり開き直れるのもある種の個性だよなあと、思わずにはいられない。その思いきりのよさを、羨ましくも思う。
まあこの件に関して俺が果たすべき義務はここまでだ。必要以上の関与はしない。
そう割り切り席を立とうとしたら、何故か引き止められる。
「あ……あの、」
「なんでしょう?」
「……腹黒副会長ktkrとか思っててすみませんでした」
「は、はい?」
「副会長がアッサリ王道ルートに落ちたとき、案外お手軽な人なんだと思ってすみませんでした」
「………」
「すみません、急にこんなこと言われても意味わからないですよね。大丈夫です、これは僕だけの懺悔ですので」
あけすけだな…。
いや、悪気はないんだろう。多分。
しかし、急にそんなこと言われて意味がわかってしまう俺はどうしたらいいんだ。上手く騙されてくれてありがとうとでも思ってればいいんだろうか。
「でも、そういうの取り除いて一対一で話すと、全然、印象が違うんですね」
「それは……どうも」
「……そ、その、あの。迷惑じゃなかったらでいいんですけど……もしまた見かけたら、挨拶だけでも、せめてお辞儀だけでも、しちゃだめ、ですか……?」
さっきまでけっこうズバズバ物を言ってたくせに、ここで気後れしたようにもじもじ目を泳がせる姿がなんだかいじらしい。
この学園に入ってから「後輩」という繋がりができるのは、もしかするとこれが初めてかもしれない。
「ええ。こちらこそ、宜しくお願いします」
篠崎くんの控えめな様子が子犬のようで微笑ましく、思わず笑みを浮かべながらそう言えば盛大に赤面された。
不要なフラグを立ててしまった気がしなくもない。
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