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好奇心から近付いて、寝顔を覗いてみる。
人は眠るとき、大抵顔が幼く見えると言うけれど、マツリはそれに当てはまらないらしい。
普段よりもどことなく大人びた容貌に、無意識に溜め息がもれた。
そういえば、マツリが寝てる姿を見るのは初めてかも。
双子やタツキがその辺でお昼寝してることは度々見かけるし、会長の寝起きの顔もわけあって何度か拝んだことはあるんだが。
マツリは隙だらけに見えて、案外そうでもない。王道学園の会計は一癖二癖あるやつが多いとか言ってたっけ。リウが。
「…………お疲れ様です、マツリ」
起こさないようそっと声をかける。
さて、と。俺も仕事するか。
中間考査がはじまる前に片付けたい事案がいくつかある。午前までには終わらせよう。
「……にしても、……寒そう」
せめてブランケットだけでも。
5月とはいえ、こんなところで薄手のTシャツ一枚で寝ているのは見てる方が寒々しい。空調がきいてるからさほど心配はないだろうが、もしこのタイミングで体調なんぞ崩されてもこちらが困る。
リネン室に予備があったかなと記憶を辿りつつ、屈めていた姿勢を正して階段の方に向かう。
いや、正確には。向かおうと、した。
のに。
瞬間、右手首に鋭い痛みが走る。
「、、え……っ? ……、ッわ!」
細く長い指、しかし意外にも大きな掌にたやすく手首を絡めとられ、強引に引き寄せられた。
ソファの背に片手を付いてとっさに抵抗したけれど、無駄な足掻きとばかりに下へ下へと引っ張られて。
その拍子にがくりと膝が折れ、片膝がソファに乗り上がった。
何が。一体、これは。
「……ッつ、、――まツ、リ…?」
瞑った目を恐る恐る開く。
見下ろした先、相手とかっちり視線が絡んだ。
寝ぼけているのか、普段よりも険のある眼差し。それが俺を見上げてぱちりと瞬く。
こちらはこちらであまりの近距離に息を飲み込んだ。
数センチ先に、いつもと雰囲気の違う整った顔。垂れ目がちの色気漂うかしばみ色の瞳に、驚く自分の姿がうつる。
そして、この状況を作った張本人は───。
「…は、、--支、倉……っ?」
なんで、お前が一番驚いた顔してるん、だ……?
「は、い……? っ……、ぅぉあっ……!」
その時間約3秒。
俺の両肩を掴んで引き離し、ソファから起き上がって俺を見下ろすマツ、リ……?
いや。誰だ、これは。
普段と違う、余裕のない掠れた声は。名字で呼ばれた俺の名前は。
その、焦燥を全面に出した表情、は。
いつもと、なにか。
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