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* * *  生徒会室のとある私室にて。  勢いよく開かれた扉の隙間からプライベートルームへと身体をねじ込んだ男は、入ってきたときと同じ勢いのまま扉を閉める。  随分と大きな音が響き渡ったが、先ほどまでいた場所とはフロアが違うこともあり、彼の耳には届いていないはずだ。  ……彼。  あの秀麗な顔に笑みを浮かべ、よく通る静かな声で労りを告げた麗人。  彼とのやりとりを反芻し、ズルズルと凭れるように座り込んだ。  防音がしっかりなされているため、無駄に広い室内は無音。  そこでは己の鼓動と熱い溜息だけが確かに息づいていた。 「は、ッあ……。ちくしょ、う」  油断していた、と。  ぽつり、落とされる苦い声。  掠れた言葉は切なさを多分に内包していた。  その体勢のまま俯いて、癖のとれた長い前髪をかきあげる。  現れた目元は赤く、そして苦しげだった。 「………落ち着け」  目を伏せる。  その声から汲み取れるものは、日頃無節操で知られる男とは思えないほどの焦りと、動揺と、 (……知られるわけにはいかないんだ、)  掻き毟るほどの、渇望。  

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