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学生の本分とは 1
学生の本分とは何か?
勉強だ。そう思っていなきゃこの空間はあまりに辛すぎる。
2年Sクラス。午後の自習時間。テキストをめくる音、タッチペンの音、時計のカチコチという秒針その他、雑談が一切排除された教室。
ICT教育を率先的に取り入れている学園では、生徒には講義ノートとして全員にタブレットが支給される。テスト形式もプリントを配布するのではなくタブレットにダウンロードする手法だ。俺は中学まで普通に紙のノートを使っていたから、そっちも活用しているけれど。
それにしても、息苦しい。
これが金曜日まで毎日毎時間続くかと思うと息がつまる。
中間考査を目前に控え、今はその考査前週間。置き勉派だがタブレットは持ち帰っているので、毎日の復習はきちんとこなせている。
あとは仕事の都合で欠席した分を補えばなんとか埋まるはずだ。
さすがに隣席の紘野も、テスト前とあってまじめに登校してる。これがいつまで続くかリウと賭けるかな。
視線を感じたのか、なんだ、と言いたげに黒い目が俺に向いた。
「いーえ、何も。相変わらず眠そうだなと。現国ですか?」
「文が長い」
「……頑張れ日本人」
紘野は基本どの教科の得点も9割超えるが、国語だけ、特に現代文が足を引っ張る。
共感性の欠如。それと、長い文を読むのが単に億劫らしい。
ここで自習終了のチャイムが鳴る。机の上を片付け、離れた幼なじみの席へ。
「リウ、昨日私が抜けた現国のノートのデータ、あとで送って下さいな」
「先生に聞いた方が早いと思、」
「ビーフシチュー」
「はいどうぞ」
ちょろ。
「久々に勉強会でもしておく?」
「あれは学年末だったからだろ。パス」
生徒会は課題やレポートさえ提出すれば出欠の不足も補えるが、考査は避けられない。
ちなみに学年一位をキープ中。
どこぞの王道みたいにオール満点とはいかないが、一度取ると絶対譲りたくなくなるんだよな。
俺やリウのような特待生は、特別待遇の条件として10位圏内をキープし続けることが鉄則。一度順位を落とせばペナルティがつき、5回落とすと特待生から外される。だから考査はいつも真剣勝負だ。
俺の余裕とも取れる発言に、リウが笑顔のまま舌を打つ。ほら、態度態度。
「余裕ですかそうですか」
「ああ余裕ですけど何か? 学年二位または三位の栗見サン。あなたこそ帰って大人しくお勉強なさらなくていいんですか?」
「……心配には及ばないよォ支倉サン。一位の人間を引き摺り下ろす瞬間が待ち遠しくて夜も眠れないや」
お互いを鼻で笑いつつ、じゃ、と手を振り、右手首につけているシンプルな細革の腕時計で時刻を確認する。今日は、まだ時間に余裕がある。
寮に帰る前に、ちょっと寄り道しよう。
行き先は図書館。
後回しにしたおかげで提出が差し迫った課題に必要な本を、これから借りにいくのだ。
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