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するりと回ってきた右手が労るように俺の額を撫でる。囁く位置が耳から少し遠ざかってほっとしたものの、今度は撫でる手つきにどぎまぎする。
王道頼む、早く去ってくれ。もうそろそろ俺が保たない。
「カワイソォに。痛かったろ」
「痛くなかったです」
「お前の身長では丁度ぶつかる位置だからな。そういえば一年の頃もこのくらいの背丈だったか?」
「……ちょっと身長が高い上に未だ伸びてるからって何ですか。私は平均です」
「ちょっと、か。なあ、支倉。4月の身体測定、いくつだった?」
「今それ訊く必要あります……?」
状況を考えてほしい。見つかりたくないのはあんたも同じはずなのに、何故そんなどうでもいい雑談を。
あやすように言われて、ついガキみたいな反抗をしてしまった俺も俺だが、あんたも大概だ。
黙っている俺を黙秘と捉えたのか、反対側の耳を指がまたなぞった。急かされている。ああくそ、言う。言うからやめてくださいほんと。
「175センチ……約」
「11センチ差だな。……"ちょっと"、か?」
「………スミマセン」
もう無理。降参。
観念して謝ると、俺をいたぶっていた手も声もあっさり離れていき、強張った肩から力が抜ける。
「これで全部かっ?」
「うん。本当にありがとう」
「コマはオレよりもちっさくて力も弱いからな。何か力になれるなら言ってくれ!」
「……ひとこと余計なんだよなあ」
「ん? なんか言ったか?」
「ううん、何も」
どうやら脅威の大元もようやく去ってくれたようだ。
やっと……解放される……。
なんて安心した瞬間が私にもありました。
「ここで気を抜くからツメが甘いんだ、お前は」
「えっ……」
「あの二人が消えて、この場所は完全に人目 がなくなった。……おまえのお望み通り」
肩を掴まれ、くるりと向きを反転させられた。嵐は去ったと思い込んでいたから、何の抵抗もできなかった。
顔の右側の背表紙に腕が置かれた。俯き加減の視線の先にはきっちり留められた胸元。正面にいるのだと実感したら、もう、形振り構っていられなかった。
志紀本先輩と目が合う前に、腕に抱えていたA4サイズの教本を顔の前にかざして防壁を立てる。自分が取った行動の女々しさに我ながら引いた。
いくら咄嗟だったとしても、これはない。
「……お前にしては随分、可愛らしい逃げ方を選んだものだな」
「今まさに自分に引いている真っ最中なので見逃してください……」
「俺は嫌いじゃないが? その反応」
「意見の相違ですね。私は好ましくないです。この状況が」
「そうだな……だから、大人しく出てこい」
俺の防衛手段を茶化すかのように、隔てた教本の向こう側をこん、こん、こんとノックされた。くそ、絶対遊んでる……。
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