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金曜日。中間考査当日。
秒針の音で生徒の気が散らないようにと掛け時計が一旦外され、自分の腕時計を頻りに確認しながら問題を解いていく。
10分休憩や昼休みの間もクラスに騒がしさが訪れることはなく、皆それぞれの机に座り黙々とテストを解く。
中間考査最終教科は、外国語科目。
座席は名簿順で、俺は真ん中の列の一番後ろ。
見直しも終わって、ふと顔を上げたら教卓に座る藤戸氏が変顔で手を振ってきやがった。ヤロウこんなときばかり俺の腹筋に挑むとはいい度胸じゃねえか。耐えろ俺。
必死に笑いをおさめ、ふと左ななめ前に視線をやる。紘野もリウも終わりそうだ。
うわ、マツリ寝てる。あいつは良くも悪くも決断が早いから、どの教科も解き終わるの早いんだよなあ。それなのに数学は常に学年一位。
絶賛頭を悩ませている双子の後ろ姿を応援していれば、暇潰しの時間は終了。
チャイムが鳴り、不正がないよう同時にタブレットが閉じる。
しんどい1日を乗り越えた。
「っ、はぁー……」
肩こった……。
ほとんど席を立ってないから仕方ないか。
さてと。今日は生徒会の仕事もオフだし、このまま真っ直ぐ帰るとしようかな。
明日の休みは気分転換に学外に出て、買い物にでも行こう。そろそろ6月に入るし、新しい靴が欲しい。服も見ておきたい。外出許可貰い行こ。
日曜はレポートを仕上げて、それから洗濯だな。衣替えの時期だ。夏服どこにしまったっけ……。
「お疲れ、リオさん」
「お疲れ様です、リウ、……さん?」
さん付け? やだ気持ち悪……。
いつの間にか傍にまで来ていた幼なじみが、やけにアルカイックなスマイルを俺に向けている。
それだけで不快指数が爆上がる。
「ところでちょっと、頼まれてくれない?」
「……できる範囲なら」
「やだなあ僕がそんな横暴な頼みごとをしたことが今まで一度でもあった???」
「ツッコミ待ちですか?」
「外出許可をね。ついでにお願いしていいかな」
ついでって……何故さっき思い付いた俺の予定を読んでんだこいつ。
「何その目。リオいつも月の変わり目に外に買い物行くじゃん」
「人間不信になるところでしたよ……」
「で、どうかな?」
「自分ですることも大切で、」
「ハァゲンダッツ三日分」
「請け負いましょう」
ありがとう、いえこちらこそ、と表面上にこやかに手を振る。
何しにどこ行くんだ、と聞いてみると、明日は学外の腐レンズと会う予定らしい。あいつは絶対に青春の方向性を間違えている。
外出許可の申請は一般生徒だと申請書類が必要となり手続きに時間がかかるが、生徒会役員はそのあたり優遇枠で、三年の生徒指導の先生に口頭で許可を貰うだけでいい。
その際、同伴者の名も一緒に報告しておけば一般生徒も申請なしで外出許可が適応される。
リウが俺に頼むのも、そのあたりのルーズさのおこぼれを狙っているからだ。
しかし三日分のハァゲンダッツと考えれば、あいつにコキ使われたという気も起きない。
その三日間は朝昼晩毎食後にアイスを食べたくなる体質になる予定なので、報酬はハァゲンダッツ×9個。うむ、お安い御用だ。
行き先変更。向かうは職員棟。
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