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放課後の広々とした廊下には、テスト休みが明けて部活動に向かうスポーツ少年やテキスト片手に答案を確認する優等生の元気な声が飛び交う。
誰も彼も、その顔には考査から解放された喜びで満ちている。
いつもの賑やかさを取り戻した校舎を進み、職員棟に繋がる空中回廊へ辿り着いた。
「……?」
そこは、ちょっとした人混みになっていた。
両面ガラス張りとなった廊下に傾き始めた日差しが差し込み、生徒の数ほど影も増える。
人混みの向こうから、声が微かに聴こえる。怒鳴り合うような。
面倒ごとの予感がする。
しかし、ここまで来てしまっては、「生徒会副会長」として見なかったふりも出来まい。
「失礼します」、と小声で前方の生徒たちに道を開けて貰えるよう促しながら、先へ先へと野次馬のあいだを掻き分けていった。
そうしてようやく職員室の扉が見えた頃、同時に目撃したのは混雑の元凶。
げんなりした。
「それでもオレはやってない!」
「ルイを離せっつってんだろ!」
「だから、話を聞くだけだと言っているだろう!」
おーまーえーはーなーんでいつもトラブルの中心にいるの??
発信源は、王道と二人の教師との言い争いだった。いい大人が王道の腕を片方ずつ掴んで、引っ張りあっているという綱引き状態。
なんだこの露骨な取り合いの図は。
ついに教師と二股か? なんて呆れて引き返したいところだったけれど、運が悪いことに教師の片方がちょうど目当ての人・生徒指導の先生と来た。
「貴様も一教員ならば一生徒への偏った依怙贔屓は控えろとあれほど!」
「るっせえなあ! テメェこそ、生徒指導室に連れ込んで何するつもりだよ!」
「は?? 生徒の指導以外に何がある???」
ごもっともなことを言うのは三年Sクラスの担任で生徒指導でもある熊里 先生。通称クマちゃんだ。
どうやら彼は王道を生徒指導室に連行したいらしい。
そしてそれを阻止しているのが1年Sクラスの担任・王道ホスト教師の幹 。
あの男にとって生徒指導室とは教師が生徒を連れ込んでナニカをするための空間らしい。逞しい妄想力をお持ちなようで。
どうすっかな……クマちゃん取り込み中か。
引き返したいのはやまやまだが、王道のせいで二度手間とか癪ですわ。
あからさまに揉め事が起きている前で、副会長が見て見ぬふりも心証が悪いし。
それにしても、なんで揉めてんだろう。
素朴な疑問に内心で小首を傾げていたら、俺の斜め前、寄り集まって事態を見守る三人組のひそめられた声が耳に届いた。
「チッ。熊里の野郎、ふざけやがって……」
「つっても、事情説明するだけだろー? 幹センセもあんなに必死に止める必要あんのかね?」
「でも、大人しく従うのもなんかやだよ。ルイくんが……カンニングなんて。絶対に、濡れ衣だもの」
……へえ。
どうやら思った以上に、可笑しなことになってるみたいだな。
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