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 Aが去り、その場に残された俺とマツリ。  そこには不自然な沈黙が続く。  新歓翌日の朝の件があって以来……マツリはけろっとしてるし、俺も俺で何事もなかったように接してはいるけれど、こうした何気ない沈黙を居心地が悪いと思うくらいには、やはりまだ気まずい。  マツリの斜め後ろに、ようやく玖珂くんが到着した。マツリの肩が少しだけ下がる。 「えっと……邪魔した?」 「いいえ、おかげさまで助かりました。マツリが来て下さったから、彼も案外あっさり退いてくれたのでしょう」  小さく頭を下げる。  助かった。やはりこの手のクレーム対応は、マツリみたいに柔軟で日頃気さくなタイプが向いている。  俺が「ここは退いてくれます??」とでも言えば高圧的とか嫌味っぽいとの印象を持たれること請け合いだ。それだとさらに長引いていた。 「やっぱり嫌われてたねえ」 「……あなたも?」 「うん。不愉快そうな目で見られてんなー、と思ったことが何度かね。ソラやウミに対しても同じみたい。あの二人が気づいているかはさておいて」 「……よく、見てますね」 「そう? けっこうわかりやすいよ」  いや、だいぶ見てると思う……。  自分に向けられているものならまだしも、他人が他人へ送る敵意まではなかなか気づきにくいものだぞ。  とにもかくにも……Aは生徒会が嫌い、と。  俺に対してああいう態度なのも、生徒会自体に対してヘイトがたまっていたからか。  直接的に俺に対して何らかの因縁があるわけではないようなら、この件はもうここで終わりだ。  一部の生徒に嫌われていると知ったところで、わざわざその一部に好かれるような身の振る舞い方に変えようとは思わない。生徒会を嫌う人間だって居るんだと、割り切っている。 「ストレートに「嫌いだ」と仰ってくれるところは、清々しくて逆に好感が持てましたけどね」 「うん。嫌いじゃないな、彼」 「はい」  それよりも、Aが「副会長と会計に因縁をつけていた」ことで親衛隊の過激派に目を付けられないかの方がよっぽど気がかりだ。  俺の親衛隊はまあ、あいつ……隊長に何とか言ってもらえば鎮まりそうだが、マツリの親衛隊はそこそこの過激層を飼っている。ただでさえ王道関係でピリピリしてるところなんだから、あんまり刺激しないで欲しい。 「ところでクマ先生たちは何があったの? この野次馬の量も、それが原因なんでしょ?」 「それなんですが……実は」  ホストと王道とクマちゃんの三角関係(仮)が勃発した事の発端を手短に説明する。カンニング疑惑のことも掻い摘まんで。  遅かれ早かれ広がる話だ。隠す必要もない。  事が事だし、俺も後で答案とカンニングペーパーを確認させて貰おう。  マツリは静かに俺の報告を聞いていた。そして、開口一番に返ってきた反応は、予想外にも。  俺への言及だった。 「……確かにルイちゃんが不正するとは考えにくいけど。そこはもうクマ先生に丸投げしても良かったんじゃない?」 「……」 「もしまた似たような問題があったとして、いちいち庇ってたらきりがなくなるよ。見て見ぬふりは難しくても」 「それは……そう、かもしれません」  そう言われると、……でしゃばった気がしてきた。  あんなの別に俺がわざわざ説得しなくとも、クマちゃんに任せておけばじきに疑いは晴れただろうし。  むしろ、マツリが言うように「また何か問題があったら」、俺は見て見ぬふりが通用しなくなってしまう。  丸投げすればいい、というマツリの言葉は一見冷たくも聞こえるが、時と場合にもよる。  今回、Aみたいに「副会長は佐久間ルイのことがスキだから特別に庇った」と思う人間を出してしまったのも、俺の落ち度だ。  まあ、やってしまったものは仕方ない。  そう自己解決する中、マツリは俺の顔を見てわずかに眉を寄せた。  もしや、オレだってルイちゃんを助けたかったのに、とか、そういう恨み節でも考えているのだろうのか。 「リオちゃんさぁ……ちょっと疲れた顔してる自覚、ある?」 「……わたしが?」 「ないみたいだね? それなのにわざわざ自分から厄介ごとに関わってちゃ、体の方がもたないよ」 「す……すみません」 「あ、いや。責めてるわけじゃないから。謝んないで」  違った。  王道のことはかすりもしてなかった。  もしかするとこれは、純粋に心配されていたのかもしれない。  多分そこには、生徒会業務で負荷を負わせた罪悪感が僅かなりとも潜んでいる。  

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