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ただ、人に心配されることに慣れないせいか、どうにも素直に「ありがとう」と礼を言うことができなくて。
もご、と口の端が動く。
何か、何かを言い返さなければ。
「わ……私も、ヌケガケしてみました」
くしくも頭に浮かんだのは、新歓1日目の夜、マツリが俺に使った手段だった。
あなたも歓迎祭で「抜け駆け」したんだから文句を言う筋合いはないでしょう、と、あの時のマツリのように、控えめに、べ、と舌を出して。
あの夜の意趣返しだと、相手に思わせるように。
虚をつかれたような相手の顔をちらりと上目に見詰め返す。笑って流してくれさえしたらそれでいい。
しかし返ってきた反応はというと。
「……───、、」
「え」
ピシッと硬直したマツ……え??
なに? その反応なに?
いやいや似合わないことをやった自覚はあるけどこれがあのときの仕返しだってことはわかってんだろ空気読めそれか流せ!
「あ、あの……?」
「……ほんっと、、さぁ…」
片方の手が口元を覆い、目は横へと逸らされる。
俺はといえば予想外の反応を返されたので、どう声をかけていいか分からない。
話題逸らしとしては成功だけど、「あはは、ヌケガケされちゃった残念」、みたいな軽い反応を求めていただけに、肩すかしもいいとこだ。その上この微妙な空気。
「そういうの。ズルいよなぁ……」
「……え、えっ?」
お前のしたこと真似しただけなのに俺だとなんでズルいんだよ、その理屈の方がズルくない?
抗議しようと試みたものの、偶然目に入った左手の指先を見て、口を噤む。
俺の視線の先を追ったマツリが、然り気無く左手を身体の後ろに回す。
癖を知っていることに、気づかれた。
でも、隠す時点で、それがもう答えみたいなものだろう?
「……じゃあ、オレたちクマ先生捜しにいくから、もう行くね。ばいばい」
「……はい」
伏し目がちに手を振るマツリへと小さく頭を下げた。
見ていないようで見ていた玖珂くんが、代わりに礼を返してくれた。
「もうやだあの人……」
「…………」
「なんで急にああいうことすんの……? 不意打ちは、卑怯だろ」
「……マツリ」
「あ、ごめんごめん。行こっか」
「…切り替え早いな」
「慣れたから」
「…そう、か」
「にしても、カンニング疑惑ねぇ。ほんと、トラブルメイカーだよなあ、あの転入生」
「………」
「巻き込まれるリオちゃんの方も、もうちょっとさあ……今回のことは性格上見過ごせなかったんだろう、けど」
「……」
「わっかんねえよなぁ。わざわざ庇うことないのに」
「……」
「……───ルイちゃんのことスキでも何でもないくせにねえ。人が良いんだか悪いんだか……おかげでこっちがほっとけねえっての」
「それをお前が言うのか」
「は?」
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