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* 「あともう一袋持ってくれてもいいじゃないですかあ……」 「半分以上持ってやってんだろ」 「そっちの袋はお酒ばかりでしょう。あなたの荷物はあなたが持って当然です」 「金出してんのは俺だ」 「ツマミを作るのは私です………あ、着きました。開けて下さい」 「カードキー寄越せ」 「はいはい」 「暗証番号」 「両手塞がってるので押せません」 「チィ。……開けた」 「お邪魔します。……はあ~~~生徒会寮と比べたらやっぱこっちは(せま)、わっ、押すな押すな」 「早く入れ」  扉の前で小競り合いしつつも、部屋に入った瞬間、学園の副会長という猫被りを一気に取っ払う。家主をさしおいて真っ先にずかずか上がり込んだせいか、背中をぐいぐい押されて土足しかけた。セフセフ。  自動でロックがかかる音を背中で聞きながら、ルームシューズに履き替える。ちらほら、俺が置いたままにしてた私物がそこかしこに残ってるみたいで。  一般寮。紘野の部屋。  つまるところ、元俺の部屋。  だいたい月一ペースで遊びに行くので、あんまり久々という気分でもない。  ルームシェアにしても相当広く、レベルは完全にプレジデンシャルスイート的なあれ。  しかし生徒会寮の規模と比べるとどうしても狭いなと感じてしまうので、この環境はやっぱり感覚を狂わせている。  品のある茶系の家具は使用されてる気配が薄い。清潔ではあるが、相変わらず生活感のない男だ。  さてさて明日は休みということもあって、お化け屋敷で交わした約束の通り突撃紘野の晩ごはんを作りに来た次第です。  買った食材を空っぽの冷蔵庫へとぽいぽい収納していく。  人の金だと思ったらついつい買いすぎてしまいました。買い込んでもどうせ紘野は料理しねえし、休日の間に使いきろう。風呂の準備をしている紘野の背中に声をかける。 「何かリクエストはありますかね」 「何でもいい」 「あっそう」  ほう、俺が作るメシならなんでもいいと。  そんなことは言われちゃいないが勝手に自己解釈。紘野がシャワー使ってる間にキッチンに立つ。  当初は肉じゃがの予定だったが、特売だった旬の春キャベツに目が眩んだので、急遽ロールキャベツに変更。明日の朝はサラダにして、夜は中華炒めで使おう。  どちらかというと紘野は甘党なので、味付けもあいつの好みに。  風呂から出た紘野に手伝いを強制しながらも、手早く調理を済ませる。ほかほかの玄米と春野菜の和物も添えて、食卓へ皿を並べていく。  味が染み込むようじっくりコトコト時間をかけたので旨くないとは言わせない。それ以前にこいつの場合、飯の感想なんぞめったに言わないがな。 「おら。たんと食えよ成長期」 「お前はもう止まったな」  黙らっしゃい。  

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